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3. 水の大循環

ストンメルらによって提唱された海の大循環は主に中深層水の循環である。海には吹送流とよばれる主に季節風による表面海水の流れがあり、この流れの効果は200mから1000mの深さまで達するものである。これに対しこの海流の逆の流れもあり赤道反流はその例である。

これに対して中深層水循環は密度による流れである。冬季、北極海で冷却された海水は表層が凍結する。氷は水の結晶であるから、結晶格子内に入れない溶存塩分は下にはき出され、氷の下に低温で高密度の海水ができる。この海水は沈降し、カウンターカレントとして湧昇流がおこる。この湧昇流は溶存するケイ酸態ケイ素や、硝酸イオンの濃度などでチェックすることができる。南極、北極圏ではこの湧昇流が極地域に熱を供給している。一般に湧昇流は周囲に比べると低温であるが、極地では逆に温度が高く有効な熱供給源である。

北極海で沈降した水は大西洋の深層水となり南極に到着するが、ここまでおよそ700年を要する、この水は南極海で沈降した水と合わさり太平洋の深層水となり北上し、やがては東太平洋のカリフォルニア沖に浮上する。これまでの時間は北極海からスタートしておよそ2000年といわれている。この水はdO2(溶存酸素)が少ないので特異的な水である。この水はカリフォルニアの気候を規定する役割を果たしている。このためカリフォルニアは年間の温度差が少ないのである。

 

4. 海水の化学組成

地球上では海水中の化学組成比はほとんど一定であり、少なくとも主成分濃度に関する限り塩分濃度がわかればその中に含まれる主成分の濃度を推定することが可能である。これは地質時代を通じて、非常に長い期間海水がかきまわされて均一化し、グローバルに循環していることを示すものであり、化学組成比の均一性は海洋底における粘土鉱物を含めて、固相、液相の化学平衡がほぼ成立しているとみることができる。これは粘土鉱物と水との常温付近での平衡と考えられるが、地質時代、あるいは地球の生成時にはもっと高温での平衡を考えることもできよう。ある限られた時間内においては化学平衡は成立しない場合が多い。特に常温、常圧においては化学平衡に達するには長い時間を必要とするからである。しかし何億年かの時間をかけた循環と平衡は、ほぼ成立あるいはみかけ上の平衡を保っていると考えることができるので、この場合第一近似として海洋における化学物質の挙動を平衡関係で解析することが可能であり、熱力学的取扱いが可能になる場合が多い。

この場合化学が有効な解析手段となる。

 

 

 

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