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2. 科学分野あるいは領域とは何か

2-1. Discipline Boundary

科学分野あるいは領域とは何かと問われたとき、多くの場合、まずdisciplineの定義を検討することだろう。Disciplineは、「それ自体の教育訓練上、手法上、分野上、特定され、教えることが可能な知識の集合体」と定義される(Jantsch、1972)。しかし、このなかに教育訓練という言葉が入っているように、disciplineの定義には、教育「制度」の側面が入ってくる。また、disciplineの境界というものは、ひとびとが思いこんでいるほど明確なものではない。たとえば「保全生物学」とは何か、という問いがでたとき、保全生物学という領域が何を含み、何を含まないかの境界は、研究者によってまちまちである。研究者は自らの学問境界を自ら定義するが、この定義のしかたは、研究者の立場やphilosophyによってことなる。つまり、学問領域の定義のしかたが異なるのである。実際に現場の科学者にインタビューを行った先行研究によると、科学者のもつ研究者集団の定義、そしてその境界はそれぞれ異なることが示されている。(Gilbertand Mulkey、1984)。

Discipline Boundaryが「学科境界」と訳されることもあるように、この定義の基礎は教育制度における「学科」の存在である。この学科境界、つまり教育制度の現場における境界は、時に研究の現場、つまり今まさに知識が生産されている研究現場の境界との間で乖離を起こすことがある。これについて以下に述べよう。

 

2-2. Validation Boundary

Discipline Boundaryに対置する概念として、専門誌ごとの妥当性境界、Validation Boundaryというものを考えることができる。これは、専門誌(ジャーナル)を単位とした境界である。1つのジャーナルの編集・投稿活動は、科学者集団の成果の蓄積、後継者の育成などに求心力として働く。このジャーナル共同体は、共同体ごとに、知識の妥当性境界:Validation-boundaryをもつ(Fujigaki、1998)。つまり、そのジャーナルの査読者群の判断によって、それに投稿されるある論文群はacceptされ、ある論文はrejectされる。また査読者の意見によって論文はreviseされる。この査読者の判断、という行為の結果として、そのジャーナルの境界というものが形成される(図1)。拒否された論文はその境界の外にあり、受理された論文はその境界の内にある。

 

 

 

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