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しかし、病理学出身のH氏は、ネズミに同様の行動をとらせて脳内物質を調べ、Yという疾患に陥るメカニズムをさぐるべきだといった。そして、臨床畑のI氏はG氏、H氏の案がともに結果がでるまで時間がかかるので、自らの「臨床的直感」から、患者にXという行動をやめさせた。

この事例においてF、G氏は「機能連関研究」をめざし、H氏は「メカニズム追求研究」をめざし、I氏は「特定指向研究」をめざしている。このように、上にのべた理論的定義は、「異分野間摩擦を説明するのに役立つ」という内的妥当性をもつことになるのである(12、13)。これは3-1、3-2のように手続きによる妥当性を獲得するのと異なる方向である。

このように領域間距離を定義するやりかたには、さまざまなものが存在している。研究の目的にあった方法論が選択されるべきであろう。

以上、本稿ではscience-mapの方法論について、科学の研究領域および領域間の距離をいかに定義するかに焦点をあてて考察を行った。学際研究それ自体を研究対象とするために、これらは有力な分析手段となると考えられる。

 

2-1-5 科学分野あるいは領域の統合とは何か〜Discipline BoundaryとValidation Boundary、およびそれらの統合をめぐって〜

 

1. はじめに

本「超領域科学としての海洋研究」事業では、海洋科学に関連する諸領域(諸分野)の関係性を可視化することを通して、それら領域間の交流を促進し、海洋科学が超領域科学として総合的な研究を展開できるよう手助けすることがめざされている。これは、各分野、領域において閉じてしまう傾向のある研究知見を、より広い視野のもとで統合するという点で意義がある。翻って、では超領域を構成する個別の単位としての科学分野あるいは学問領域とはどのように定義されるのだろうか。また、これらの分野は何故放っておくとタコツボ化してしまうのであろうか。さらに、超領域、あるいは学際研究とはどういうものか。そしてそこでめざされる、領域間の知識統合というのはどのように可能なのだろうか。

本稿は、これらの問いに関する考察を、筆者の現在の専門である科学社会学(Social Studies of Science)の知見をもとに展開することを目的としている。

 

 

 

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