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また査読者の意見によって修正を要求された論文は、境界の内に入ってもよいように修正される。このように、査読制は、そのジャーナルにおける「知識の審判」機構を果たす。ここで査読(refereeing)の規則は、明文化されていないことに注意しよう。明文化された基準はないにもかかわらず、自分が投稿した際に査読者から言われた経験の積み重ねから、そして過去に掲載された論文系列の傾向から、研究者はこの暗黙の基準を作りあげ、そして共有するのである。明文化されていないにもかかわらず共有されている(あるいは共有していると思っている)境界は、後に述べるような「異分野摩擦」を考える上で有効な概念となる。

 

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図1 1つのジャーナルの境界形成プロセス

 

科学知識の妥当性は何によって保証されているのか、という問い、そして何をもって「科学的」と判断するかの問題は、これまでの科学論において1つの大きな課題であった。現代の科学論においては、知識の正当性(validity)と正統性(legitimacy)を審判する境界を画定する作業をBoundary-Workと呼ぶ。(Gieryn、1994)上で述べたValidation-Boundaryとは、このBoundary-Workを行う科学者共同体が、それぞれのジャーナル共同体ごとにもつ境界画定のための装置である。そして、「科学的とは何か」の問いに関する答えは、実はこのジャーナル共同体によって異なる。ある共同体においては、現実を「ありのままに」記述することが求められ、ある共同体においては実験手続きの明記が問われ、別の共同体ではデータ取得の際のバイアスの除去と統計検定手続きが問われる。Validation-boundaryを細かく検討すると、何をもって知識を科学的と判断するかの基準は、決して一枚岩で扱えないことが判明するのである(藤垣、1999)。

 

 

 

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