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2] 操作的定義2:評定法

これは各領域に属す研究者によって主観的に距離を判断する方法である。たとえば海洋科学を構成する、海洋生物学と地球化学の距離を仮に1と設定したとき、別の古環境科学と海洋生物学の距離は0.8など、各研究者の考えている距離を可視化していく方法である。

この方法の場合、その距離の設定の妥当性は何で保証するのであろうか。この種の方法で距離の設定を行う場合、妥当性を保証するのは、評定者間一致率であろう。すなわち、この距離の評定が評定者の恣意性に左右されないことを保証するためには、複数の評定者に独立に分野間距離を判定してもらい、その判定が「評定者によらず一定」であることを示せばよいのである。実際には評定が100%一致することはありえないと考えられるため、X人の独立な評定者間一致率が項目ごとに51%から72%の間に分布した、などという形で示すことになろう。

3] 理論的定義

たとえば異分野摩擦をひとに理解できるように説明するのに役立つやりかたの例として、以下のような理論的領域間距離の定義が可能である。

まず科学を理念志向型研究と特性指向研究とに分ける(10)。特性指向型とは対象の特性を記述することをまず第一に考える研究であるのに対し、理念志向型では、対象の特性を超えた一般化をめざすことが重要視される。続いて理念志向型研究をメカニズム追求型と機能連関型に分ける。ここで機能連関型研究は、現象における入力と出力、あるいは原因と結果を同定し、それら入力と出力の測定の精度をあげ、予防や予測、制御などの社会的目的を達成することをめざす。それに対し、メカニズム追求型は、その間のメカニズムをより詳しく追い求めることをめざす。このような理論的定義は、上記に述べたような操作的定義と異なるが、「異分野間摩擦を説明する」という目的のためには非常に有効である。この有効である事例を以下にあげる。

 

<事例>

行動科学、疫学、病理学、臨床系のひとが協同で研究をおこなっているストレス関連のプロジェクトの例である。とある患者が、職業生活においてXという行動を長年とってきたがゆえに、Yという疾患におちいったのでは、という推測が、とある研究会で報告された。これに対し行動科学のF氏はXを入力、Yを出力とした行動モデルを立て、行動Xを測る測定法を精密に設計し、職業性ストレスとして定式化すべきと考えた。疫学出身のG氏は、コホート研究を計画して、T1の時点において行動Xのある群とない群に分け、10年後のT2の時点でYという疾患の出現確率の2群における差を検定して、因果を照明するべきだといった。

 

 

 

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