日本財団 図書館


2] 知識生産の現場からの定義

以下に知識生産の現場からの定義を考えてみよう。

現代科学の知識生産にとって重要なのは、専門誌(ジャーナル)への投稿・編集活動である。現在世界中でScientific journalの数はSCI(サイエンスサイテーションインデックス:米国のデータベース作成機関Institute of Scientific Information Inc.が作成している科学技術文献データベース)に用いられるものだけでも7,000を越えている。この1つ1つのジャーナルは、現代科学の知識蓄積にとって大きな役割を果たしている。

 

1) 差異反復による論文産出

さて、そのジャーナルに投稿される科学論文は1つの定形式をもっている。すなわち、自然科学の論文はかならず、導入、方法(あるいは手続き)、結果、考察(introduction、method/procedure、results、discussion)の順で書かれるということである。この形式が踏襲されることにより、過去の類似した研究との「差異」が強調されることが可能になる。つまり、methodologyが新しい、あるいはresultsが先行研究と異なる、あるいは同じ結果から異なるdiscussionが可能である、などのように差を強調できる。

この定型式を取ることによって、先行研究との差異が明確になるのである(2)

科学論文は先行研究群との「差異」を強調することによって書かれる。この差異こそがオリジナリティと呼ばれるものであり、投稿者も査読者も、この「差異」に非常に敏感である。論文がそれまでの論文群の差異を強調して書かれ、その論文を引用して書かれる論文も、またそれとの差異を強調して書かれ…という論文産出の連鎖を考える場合、現代科学論文は「差異の反復」によって書かれると考えてよいだろう。この差異の反復は、something new-ismと形容されることもある(3)

 

2) 知識の妥当性境界(validation-boundary)

さて、この差異反復によって産出される論文群は、ある境界を形成する。まず、1つのジャーナルのもつ境界が形成される。1つのジャーナルの査読者の判断によって、ある論文は受理され、ある論文は拒否される。この査読者の判断、という行為の結果として、そこにはそのジャーナルの境界というものが形成される(4)。拒否された論文はその境界の外にあり、受理された論文はその境界の内にある。はじめから境界があるのではなく、あくまで論文生産の継続をあとから振り返ってみると、そこに境界があることがわかる、のである(図1)。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION