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また海洋で発生する台風やハリケーンが、破壊的影響をもたらすこともいうまでもない。

研究すべきことはこのようないろいろな影響をもたらす海洋の物理的変化のメカニズムである。それはまた最近にわかに注目されるようになったCO2ガスの温室効果による温暖化のプロセスの中でも重要な意味を持っている。しばしば取り上げられる海水の膨張による海面上昇にしても、その程度をある程度正確に予測するには海洋における熱の流れについてより多くの情報が必要である。それはまた南極やグリーンランドの氷床の融解によって海面が一気に数メートルも上昇することの可能性の評価のためにも必要である。

海洋の環境としてのもう一つの側面は、その陸地からの排出物の吸収能力である。古来陸上の汚れは「海に流す」ことによって処理されることが多かった。しかし海洋の吸収力も有限であり、容量を越えると海洋汚染が起こる。比較的閉じた水域で汚染が生じ、それが海中の生物の食物連鎖を通して濃縮されると重大な悲劇をおこすことがあることは水俣湾の例で明らかとなった。最近では世界中の水域で汚染が起こっている。特にいわゆる環境ホルモン(ホルモン撹乱物質)は全世界的な規模の生態系のつながりの中で、北極のクマにも重大な影響を与えていることが示された。地球上の海洋全体を一つの閉じた系として、その環境容量を明らかにし、その汚染の進行を阻止する方策を考えなければならない。

また一部では大気中に放出されるCO2ガスを深海に封じ込めようという試みも行われている。その技術的可能性はともかくとしても、このような形で深海が利用される場合、その海洋環境への影響は慎重に検討しなければならない。

 

5. むすび

地球は小さくなったと言われる。そのことは海洋について言えば、それを有限な一つの閉じた系として考えなければならないことを意味する。海洋を陸地を囲む「周辺」或いは「外界」と考えるのではなく、陸地と海洋とはともに有限な地球の表面を構成する相補う二つの部分と考えなければならない。交通路としても、資源面からも、環境面からも、陸と海を一体として考える必要が生じている。しかし社会的に見ると、陸地と海洋とは全く異なる原理で扱われている。陸地はすべて主権国家によって分割され、また各国内では政府をふくむいろいろな経済主体によってほとんどもれなく所有されている。これに対して海洋は領海を除けば、ほとんど人類全体の「共有地」というより、所有者のない場所のように扱われている。

 

 

 

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