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従ってもし海洋と大気中のCO2のバランスが僅かに変化しても、大気中のCO2の濃度は大きく変わってしまう可能性がある。またCO2の濃度上昇によってどれだけ気温が上昇するか、またその影響が世界各地の気候にどのように影響するか、あるいはどの程度海面上昇がおこるかなどということは、すべて海水の温度がどこでどれだけ上昇するかに懸かっている。これらの点がほとんど解明されていないことが、地球温暖化問題にまつわる不確実性の大きな要素となっている。

海洋の状態に関する科学的研究を大きく推進することは、地球環境問題にかかわる不確実性を減少させることによって、それに対応する有効な対策を採用することを可能にし、結果として大きな利益を生むであろう。

環境としての海洋に関するもう一つの問題は海洋汚染である。そうして今後の問題は局所的な海域における汚染にとどまらず、海洋全体の汚染、いわば海洋の環境容量の問題である。陸上からの排水や廃棄物が海洋全体にどのような汚染をもたらすか、それを防止するにはどうしたらよいかを考えなければならないであろう。海洋全体が汚染されてその水質が変わってしまうというような事態が生ずるのは、遠い先のことと思われるが、しかし高度技術の発達は、同時に環境破壊力の拡大を意味する。とくに海洋資源が、あるいは空間としての海洋が、より高度に利用されるようになれば海洋汚染の危険性も増大することに注意しなければならない。

資源の面からも環境の面からも、海洋について単なる自然科学的関心からだけでなく、人間生活に対する影響という観点から解明されなければならない課題は多い。

ここで重要なことは海洋の研究と、海洋に関する技術の開発には、国際的な協力、あるいはむしろ全人類的な観点が要求されることである。海洋の大部分は公海として、誰のものでもない共有のものと考えられてきた。これを大陸棚の占有権や200海里、海域漁業権のような観点によって、諸国家の間に分割するのは愚かなことである。海洋が全地球の自然環境に大きな影響を及ぼす点だけからしても、それを一部の国々が自分の利益のために占有し自由にすることが許されてはならない。またその資源や可能性が、企業の私的利益のために使われてしまうことも正しくないであろう。海洋の研究開発は世界的な共同事業として行われなければならないし、そこから得られるものは全人類の福祉向上のために役立つものでなければならない。

 

 

 

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