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第2章●基礎調査各論

 

海洋に関連する専門分野、隣接分野、関連分野の広がりは極めて大きい。したがって、海洋研究のアプローチは極めて多彩であり、かつまた様々なスタンスの取り方が予測される。本章では、そうした分野の広がりを13名の専門家により24項に分けて、基礎的な分野理解の原点・現状・解析等につき、予察的な考察を試みていただいた。それぞれは、何らかの形で立体目次制作の基礎を与える素材である。

 

2-1 科学分野の歴史と現状

 

2-1-1 科学技術伝播における海洋交通の役割─情報空間としての海洋文明史の一断面

海洋はさまざまな表情を見せる情報源そのものであり、陸と陸を繋ぐ情報の担い手・運び屋であり、またその間にさまざまに加工し凝集し拡散し変転させる情報の変換装置である。かつて地球の裏側を震憾させたチリ沖地震がその記憶として半日後に三陸沖の大津波になって襲来した事件は、もっとも象徴的である。情報という観点から見たとき、海洋は多層な情報空間に塗り込まれていることに気づく。海洋情報には地理学的・海洋物理化学的・生物学的・漁業資源的な側面がある。

とりわけ人類が、船という手段で海洋交通網を作り上げてきた意義は、文明史的にみて測りしれず大きい。陸上の交通機関として蒸気機関による列車の登場するのは19世紀になってからであり、大気圏や宇宙空間を航空機やロケットで飛べるようになったのも、電気的電子的な情報通信網の整備が一挙に進んだのも20世紀以降の話である。いままた21世紀にかけては宇宙という海を行く新たな情報統合システムとしての船舶、宇宙船時代に入っていくであろう。

全地球的な規模で人類文明を横断する情報伝達のダイナミックスを支えてきたのは、歴史的に見れば、有史以前からの船舶交通であるといってよい。海洋の側からいえば、海洋は情報の指針としての船をその上に浮かべ、船を介してもその意志を伝達する。海洋の怒りは船を翻弄し、海洋の安らぎは船を穏やかな航海に誘う。一方で船は人類の英知の所産であり、文明の動く結節点でもある。人類は船を介して地球という水惑星の表情を探り、実験室として時間空間の探測を展開した。人類の空間認識は、海洋船舶から宇宙船舶への進展という船舶交通の進展とともに深まった。それは、時間認識を補助としつつ地上と天上にネットワークを展開して見晴らす限りの水平線や宇宙的地平にさまよう自船の方位、すなわち経度・緯度、赤経・赤緯を定め、自分のよって立つ世界を確認することを可能にした。

 

 

 

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