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「緩和ケア」できることから始める

 

佐賀医科大学附属病院

古賀 鈴子

 

はじめに

 

緩和ケアナース養成研修へ参加するにあたり、患者・家族への精神的アプローチについて学び、理解することを自己の課題とした。この研修で、ターミナル期における患者・家族の心理的特徴と援助の実際、コミュニケーションの方法、チーム医療、症状コントロールなどについて多くのことを学ぶことができた。これまでの自分が行ってきた看護を振り返り、反省すべきことも多くあったが、自分を見つめ直すことのできた有意義な時間であった。ここでは主に、全人的苦痛に対するアプローチ、コミュニケーション技術について学んだことを述べる。

 

全人的苦痛について

 

末期がん患者にとって苦痛とは、(1)身体的、(2)精神的、(3)社会的、(4)霊的苦痛がある。疾患の診断を受けた時から、患者の心は痛み、ケアを必要としている。

(1) 身体的苦痛

疼痛・全身倦怠感・食欲不振・呼吸困難・悪心・嘔吐などの症状がある。このような症状に早急に対処し、緩和させていくことが必要である。症状が長びくほど苦痛は続き、日常生活に支障を来たす結果となる。症状コントロールについて、症状別に講義や実習施設の中で学ぶことができた。何より患者の訴えを十分に聞くこと、細かな観察・評価を繰り返していくことが重要だと感じた。

(2) 精神的苦痛

主な症状として、不安・苛立ち・恐怖・怒り・うつ状態などがある。がん告知を受けた患者は、まず頭の中がまっしろになりショックを受けると言われている。患者は、誰かに話を聞いてもらいたいという思いでいる。このような時の関わりとして、十分な時間をとり、患者の言葉に耳を傾けることが必要である。また、見守る、待つという姿勢で関わることも大切であると感じた。当病棟では、実際にがん告知を受けている患者は少ないが、自分の疾患が何であるかを悟っている方は少なくない。今までの自分を振り返ると、沈黙に耐えられず、つい足が遠のいていたように思う。患者と真正面から向き合い、共に歩んでいくという姿勢で関わっていくことが求められていると感じた。

(3) 社会的苦痛

家族・親族間の人間関係や経済状態などの問題がある。患者・家族の悩みが、疾患そのものよりも経済面や退院後の生活など、社会的な問題が中心となっていることもある。家族のあり方、患者にとってのキーパーソンを理解し、問題に対する援助も必要となる。可能な限りでの社会資源の活用が必要であり、知識が求められると感じた。

(4) 霊的苦痛

霊的苦痛は常にあり、切り離して考えることのできない痛みである。患者は、死に対する恐怖に怯え、孤独感、絶望感、不公平感、無意味感などを体験する。コミュニケーションは必須である。何も応えることができなくても、患者の手に触れ話を聴くだけで、看護婦の気持ちは相手へ伝わり信頼関係はできるということを学んだ。患者の質問に対し、答えを捜そうとして言葉に詰まるという状況によって不安を増強させてしまう結果になることもある。看護婦の表情、無意識の言動が与える影響は大きい。

 

 

 

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