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だから、そういう時にいろいろ説明をされたとしても、実際聞きたいこと以外は頭に入ってこない。そして、患者がゆっくり話せる時間と場所、加えて看護婦に聞こうとする態度がなければ、自分の気持ちを話そうという気になれないことに気づいた。

コミュニケーションとは、患者を把握し看護介入していくために必要不可欠なものである。私たちは、患者の心を開き、そして癒していけるようなコミュニケーション・スキルを磨かなくてはいけない。現在、説明できても聴けない医療者が多いと言われているが、コミュニケーションを図るためには、まず聴くことから始めなければならない。良く聴くことにより、患者の満足度は上がるようである。コミュニケーションを効果的に進めていくには、「はい」と患者が返答するような質問をするのではなく、患者の気持ちが言葉として引き出せるような質問をしなければならない。したがって、患者の心の中に入っていくためには、Open Questionをうまく使い、患者が自由に話せるように持ちかけ、傾聴していくことが大切である。

傾聴とともに、共感していくことも忘れてはいけない。共感できたことが、相手に伝わらなくてはいけないのである。そこで、言葉と態度で確実に示していくことが必要となる。共感する場合に、まず「お気持ちは分かります」というと「もうこの話題はおしまい」というニュアンスになる。患者はそれ以上話せなくなり、閉じられた共感となってしまう。しかし、「大変ですねえ、さあどうしましょうか」というと、これから問題となっている解決策を一緒に考えていこうというニュアンスになり、これは、「患者と共に悩み共に考えていきましょう」という、開かれた共感となるのである。患者が「分かってもらえた」と思えるような、開かれた共感的態度で接していかなければならない。そして、コミュニケーションがうまく促進できるように、うなずきや言葉かけの方法を工夫し、内に秘めた感情を外に表出できるように導き、問題が何なのかを明確化していかなければならない。今回、コミュニケーションの難しさと大切さを改めて知らされ、その方法を学べる良い機会となった。

 

家族の立場を尊重したケア

 

さらに、私たちは患者だけでなく、患者と家族両者に対するケアを提供していかなければいけない。家族も、心身共に大きな苦痛を背負っており、患者と共に病と闘ってきた家族にとって、患者への根治的な治療手段がなくなったターミナル期というのは、失望と悲嘆の日々である。そこで、愛するもの(患者)の苦痛が軽減され、安らかに過ごせるよう援助の手が差し伸べられたならば、患者と同様、家族もその死を受容できるよう導かれる。そして、私たちは家族が患者に対し精一杯尽くしたという達成感を得られるように、ねぎらいの気持ちを忘れず、全人的な関わりをもって接しなければならない。また、家族にも家族としての価値観やシステム、ライフスタイルがあるということを理解し、家族の立場を尊重したケアを提供していかなければならない。

患者・家族の様々なニーズに応えるためには、他の専門職の力と役割を活かしたチームアプローチが必要となってくる。さまざまな専門職の立場や角度から観察し、多くの情報を得ることは、患者を把握していくうえでとても重要なことである。その情報をお互いに共有することで、問題点をより明確化でき、チームとしての方向性を見いだすことができる。それぞれが同じ目標を持ち、協力していくことで、患者・家族により良い看護と、より人間らしい快適な暮らしを提供することができるのである。さらに看護婦は、各専門職を十分理解したうえで、専門性を最大限に発揮できるよう働きかけていくことも大切な役割である。

質の高い看護を提供するために、私たちは看護婦としての看護観、死生観や価値観を持ち備えている必要がある。自分が分からなければ、おそらく相手のことを理解することはできない。しかし、自分の考えをしっかりと持つことができたなら、おのずと看護の中身も変わり、看護の質の向上につながっていくと思う。

 

 

 

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