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精神的苦痛:身体的苦痛とともに必ず精神的苦痛を伴う。その主な症状としては、不安、いらだち、孤独感、恐れ、うつ状態、怒りなどがある。援助の基本は、十分に時間をとってベッドサイドに座り込み患者の言葉を傾聴することである。患者の感情に焦点をあてながら、理解的態度をとることが大切である。それぞれが異なった環境や背景のもとで生活してきたわけである。患者の生きてきた歴史に敬意を示し、共に闘うことを知らせる。時には何かをするのではなく無言であっても、そこに存在することに意味がある。いかに患者に寄り添うことができるかである。患者のありのままを受け入れていく中で、患者と医療者間の信頼関係が築き上げられていく。

社会的苦痛:経済上の問題、生活上の問題、職業上の問題、社会復帰の問題、死後の事柄の問題。これらが社会的苦痛としてあげられる。まずは患者と家族の話に耳を傾け、社会的問題を共感し理解することが出発点である。なんらかの問題が生じていると徐々に患者は闘病意欲を失い、無気力、自分を無価値であるように感じたりする。患者の精神状態や生育歴、生活歴、家族歴を詳しく把握することも重要である。社会福祉的視点からソーシャルワーカーに入っていただくこともある。患者が安定した生活を送るためにも、心理、社会的な援助が必要である。

霊的苦痛:人は死と直面するという体験の中で、人間の心奥深いところにある究極的、根源的な叫びを意識的、無意識的に持つ。霊的苦痛と言われるこの叫びには1]生きる意味への問い、2]人生の苦難への問い、3]罪責感、4]死後の世界についての問い、5]希望についての問い、6]決して見捨てられない真の愛を求める叫び、が挙げられる。

その人の人生の最期の時をケアさせていただく緩和ケア病棟では、患者さん達が、生まれてきて良かった、生きていて良かった、と思えるような暖かな心と心のふれあいがある場所でなくてはならない。目の前にいるその人が、今日を生きていることを喜び、生かされている実感があるかどうか意識してかかわることである。その人の情緒に寄り添い、共感することにより、自分を受け入れてくれ理解されたと感じたとき自律がはじまる。また、どんな状況にあっても、私たちは希望を与えなければならない。自分自身のためにも死生観を持つことは重要である。“死が永遠の別れだと思わないことが、看護者自身の希望にもつながる”と講義内容にもあったように、私も宗教とは関係のないところであちらの世界があったらいいなと思う一人である。あの世という確信はないけれど、看護者自身に死生観があると、会話が広がり、患者に希望を与えることができる。

 

2) チームアプローチ

緩和医療は、チームアプローチが最も必要な分野の一つであると言われている。患者を中心とした医療チーム(医師、看護婦、看護助手、ソーシャルワーカー、宗教家、理学療法士、作業療法士、薬剤師、栄養士、ボランティア)などのチームメンバーは、それぞれの専門性を発揮しつつ、他のメンバーと協力していく必要がある。積極的なカンファレンスやミーティングを開き、その時の患者や家族の必要性に応じて迅速かつ適切な対応ができるようにコーディネートしていく。チームでかかわるということは総合的に判断できる。多くの必要性を満たすことができる。方針の一致した医療が行える。パターナリズムから脱却できる。互いに理解し援助し合うことができる。チームの一員であることを自覚し、共通の目標に向かっていく相互扶助の精神が必要である。

 

3) 家族ケア

家族の一員である患者が危機状態にいるときは、家族にとっても危機状態である。患者と共に病と闘っている家族に対して、私たちのなにげない言葉がけや、優しい笑顔などが、家族の張り詰めた思いを癒すことになる。

 

 

 

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