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誰かのために生きられたら

 

静岡県立総合病院

望月 節子

 

はじめに

 

今回の研修の動機は、当病院が平成12年度に院内病棟型の緩和ケア病棟が開設されるにあたり、緩和ケアの基本的な考え方を学び、緩和ケア病棟の看護基準作成のための知識を習得したいことと、自分自身の看護を振り返り自己の成長を促す機会としたかったために研修を希望しました。研修目的は1]緩和ケアの看護実践に必要な知識、技術、態度を習得する。2]効果的なチームアプローチについて学ぶ。3]自分自身の死生観、看護観を見つめ直す。

現在の医療は“患者主体の医療”と叫ばれていても、まだまだ治療が優先され患者の苦痛が受け止められない現状がある。また、患者の辛さや悲しみを支えきれない自分の力不足に悔しさとやりきれない思いを感じていました。研修の中でそれらの疑問に対しての学びと、緩和ケア病棟の方向性がみえてきましたので、ここに報告します。

 

研修を通しての学び

 

1) 全人的ケア

文明が進み、医療の現場もハイテクな機械類が入り込み、そこにはあたかも行きとどいた医療や看護がなされている錯覚を起こす。文明が進めば進むほど、そこには忘れ去られていく「心」という問題が配慮されていない、病気のみに焦点があてられている現状がある。

緩和ケアの基本的な考え方は、治癒不可能な疾患の終末期にある患者および家族のQOLの向上のために、さまざまな専門家が協力して作ったチームによって行われるケアを意味する。そのケアは、患者と家族が可能な限り人間らしく快適な生活を送れるように提供される。

シシリー・ソンダースの概念では、患者の苦痛は単に身体的な側面だけでなく、精神的、社会的、霊的な側面から構成されているという全人的な視点である。そして“患者の病気”に焦点を合わせるのではなく、患者を“病気をもった人間”としてとらえる視点が重要であると言われている。

身体的苦痛:痛み、全身倦怠感、食欲不振、便秘、不眠、呼吸困難、悪心、嘔吐などは末期患者にみられる身体的苦痛である。痛みは患者の人格まで破壊し、家族関係や友人関係にも障害をもたらす結果となることもある。まず緩和ケアでは、これらの身体的苦痛の緩和が第一に行われなくてはならない。看護婦は患者の訴えに耳を傾け、どんな小さなことでも見逃さない観察力や気づきが大切である。情報を的確にアセスメントする能力、痛みの評価に対しては、薬剤の性質をよく理解し、患者個々にその鎮痛有効域は異なることを念頭に置き、評価、調整することが求められている。

疼痛マネジメントの基本的な考え方として

1] 痛みの訴えを信じ必ず対応し、患者の訴えを軽視しない。

2] 痛みの原因を正確に診断し、痛みの増強因子や軽減因子を明らかにする。

3] 鎮痛薬は患者にあった投与方法を選択し、投与量を調整する。

4] 患者と十分に話し合い、現実的な目標を設定する。

5] 鎮痛効果と副作用を毎日繰り返し評価し、投与量の調整をする。

また、身体症状に伴いADLが障害されてくることへの苦痛に対しても、その人の生活習慣の尊重をし、低下するセルフケアへの援助が必要になってくる。

 

 

 

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