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また、どうしても緩和できない苦痛が出現する場合もあります。そのため「痛い・えらい・辛い」「どうして自分の思うように生きられないのか、生きていてもしかたない、辛い」という訴えが多くなります。今まで私はこのような時、どう対応して良いかわからず、沈黙しその沈黙に耐えられず話題を変えてしまったり、がんばりましょうと安易な励ましを返すことが多かったように思います。訪室する気持ちも足取りも重くなっていました。

研修の講義中で、これらの行為は、「死への不安や恐怖」「生きていることの辛さ」を誰かに知ってもらいたい、弱音をはきたいと思う患者さんの気持ちを閉ざしてしまうことになると知りました。また、患者さんは、みんなが一生懸命やってくれても苦痛がとりきれないこと、いつかは死が訪れることなど、どうにもならないことはわかっているが、独りで耐えるのは辛いから言葉にだしている。私達に大切なのは、その気持ちを聴いて受け止めてあげること、そして患者さんと共に悩み残された日々をどう生きていくのが最も良いか共に考えていくことであると学びました。

「ここが痛い、体が辛い、自分で食べることもトイレに行くこともできなくなって、人の世話になって生きていくことが辛い、私は看護婦さんのような人の役に立つようなことをしていないのに、空を飛びたいけれど自分では飛べない」という患者さんに対し、ホスピスナースは相槌をうったり、「辛いですね」と言葉を返しながらずっと聴いていました。そして、そのあと「あなたも今までいろんなことをしてきたのではありませんか」と、患者さんがこれまでの人生を振り返り、あれもやった、こういうこともやったと一つ一つ思い出すことができるように問いかけ、「ご自分では気づいていらっしゃらないようですが、あなたのやってこられたことは十分人の役に立つことだと私は思いますよ」と、生きていることの意味を一緒に見出そうとしていました。

患者さんの家族も、愛する家族の一員を失うことで全人的に苦悩するため、患者さんと同様のケアが必要になります。

自分の死が見えている患者さんや家族は、とても真剣に私達に向かってきます。その人々の気持ちを受け止めることは、とても大変なことであり、私自身が「人が生きることの意味や死ぬまでをどう生きるか」という考え(死生観)をしっかり持つこと、人間性をもっと豊かにすることが必要であると思います。そして患者さんの言葉(気持ち)に耳を傾けていくことが最も大切だと実感しています。

緩和ケアの目指すものには継続ケアもあり、症状が緩和されれば状況が許される限り入院と同じケアを受けながら自宅で過ごせるようにすることが重要となる。また、病状悪化か急変時に24時間対応できる体制を築くことが望まれるといわれています。聖隷三方原病院では、在宅ケアを支えるために訪問看護と在宅診療が提供されていました。ホスピス外来に通院されている患者さんやご家族には、「今の生活がどうか、辛いことはないか」を尋ねて診察し、病状の進行状況を確認されていました。そして、今現在の症状について知りたい方には必要な情報だけを提供し、治療方法について患者さんと相談しながら患者さんが自分で選択決定していけるよう話を進め、患者さんやご家族が有意義な人生を送っていることを言葉で伝え支援されていました。病棟だけでなく在宅ホスピスや外来でも「その人の持てる力」を大切に関わっておられたように思います。

ホスピスケアの実際を体験することができ、多くのことを学ぶことができました。これから、「患者さんの気持ちを大切にする心」を持ち続け、緩和ケアが実践できるよう努力していきたいと思います。

 

 

 

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