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患者の気持ちを大切にする心を持ち続けて

 

香川医科大学医学部附属病院

池田 由美子

 

実習初日、私は緩和ケアの実際を体験できるうれしさの反面、初めてホスピス病棟に足を踏み入れることになりとても緊張していたが、実習がしやすいようなプログラムを作成してくださり、肩の力を抜いて2週間を過ごすことができました。

ホスピスでは、患者さんやご家族が人生の終末を穏やかに過ごせるよう援助がなされていました。

S状結腸腫瘍術後再発し肺メタのある患者さんは、腫瘍浸潤により痛みが強く疼痛コントロール目的で入院されていました。持続皮下注をモルヒネからフェンタネストに変更し、11・16からのステロイド投与により安静時の痛みがとれるようになっていました。患者さんは身体を動かすと痛みが強くなることを理解されていましたが、歩いて退院することがご自分の目標であったため、どこまで動けるかの確認作業もありトイレで排泄したい欲求が強いようでした。ホスピスナースは、患者さんにベッド上で排泄することが安楽であるという情報を提供されていましたが、実際にどうするかは患者さんの意志を尊重し、患者さんがポータブルトイレに降りることを選択すると、動く前に疼痛時の指示である塩モヒ20mgを注射で使用し排泄介助を行っていました。排泄後、患者さんの痛みが取りきれていないと再度塩モヒ20mgを追加され、緩和されるまでマッサージを続けていました。また、痛みの緩和に有効な入浴も状況の許される限り実施されていました。

緩和ケアでは、苦痛を感じる症状について患者さんの訴えを過小評価することなく積極的に緩和することが重要です。そのためには、症状の発生機序と現れ方・原因・治療法と症状緩和に有効な看護ケアの知識を持つことが必要です。そして症状をただコントロールするのではなく、QOLを高めるために患者さんがどのような生活を望んでいるのかを把握し、患者さんに関わる全てのスタッフが、カンファレンスでその情報を共有し患者さんにとってより良い方法を検討しながら援助していくこと、行った治療(使用されている薬剤の効果や副作用)やケアが患者さんにとってどうであったかを日々評価することが大切であると思いました。

ホスピスでは患者さんが入院されると、できるだけ早く苦痛を緩和しその人らしい生活が送れるよう情報交換・問題点の整理・目標設定のため、入院時カンファレンスが持たれていました。また、日々状態の変化する患者さんに適切なケアができるよう毎日ショートカンファレンスが実施されていました。ケアにおけるチームアプローチの重要性をスタッフが認識されており、カンファレンスはプライマリーナースが中心となって行われ、医師・チャプレン・MSW・ボランティア等のスタッフ全員が参加されていました。一般病棟ではまず、医師と看護婦が共に話し合いの場を持つことが必要で、看護婦側から意識的に働きかけていく必要があると思いました。

自分の病名を知っている人はもちろんですが、たとえ病名を知らなくとも患者さんは次第に死期が近づいてくると体でそれを感じます。そして死への不安が広がり、「どうしてこうなったのだろう」とか、「もう少し生きたいと思うが、どう思う、もうダメだと思うか」などと問いかけてこられます。病気が進み衰弱も進んでくるとセルフケア能力が低下し、患者さんは日々、喪失体験をしていきます。

 

 

 

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