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誕生会では、事前にそれとなくその人の好物の情報を得て、調理師とメニューミーティングをし、すべて手作りのものを供する。当日は、食器を自分達手持ちのものを持ち寄り、家庭の雰囲気を出し、野山の自然そのままの形で季節感を出し、鍋を患者の所に持ち込んで温かいものを調理師の手で給すとの話にはただ驚きと感謝であった。調理師も栄養士も、最後になるかも知れない誕生日にして差し上げられるのはこれくらいのことです。本当に“ささやかなもてなし”です、と栄養士の山田さんのバイタリティーあふれる話しっぷりに人間の大きさを感じ、聖マリア病院へ入院された患者さんは“幸せだなあ〜”と思った。皆んなの心が一つになって患者・家族に対して本当に心のこもった温かいもてなしがされているのだなーと感じた。大切な家族の一員である患者に対してのこのような温かい医療者の気配りは、家族の心も癒されると思う。

 

いのちの木

 

ホスピス入院を希望して外来を訪れた患者・家族に対して、聖マリア病院では次の3つを基本に対応している。

1. 病気の理解をしているか

2. 本人または家族がホスピス入院を希望しているか(在宅ケアも可である)

3. 聞かれたことに嘘をつかない

一週間に一回のホスピス外来では間に合わず急遽平日の午後を利用されたり、病棟での面談が行われていた。患者と同時に家族へのケアが大きいという話である。

毎日のケアの中で相手の立場にたって、開かれたコミュニケーションをすれば心身共に疲労困憊する。そんな時、祈りの部屋の“いのちの木”の前で静かに手を合わせてみる。“いのちの木”は、聖マリア病院ホスピスのシンボルである。約2mの幅、厚さ30cmぐらいの木が窓際に天井まであり、その両脇から斜めに細い木(枝と葉)が10cm間隔でのびている。

聖マリア病院院長が3か月ごと発行の機関紙の中に次のように書いておられた。

「それの前に立った一人ひとりに、その時々に応じて、多くの意味を見いだせる可能性を与えてくれる豊かな“いのちの木”である。多くの人の嘆き、悲しみ、喜び、希望、愛を聴いてきた“いのちの木”であり、洞察、励ましと力とを心の中に感じさせてくれた“いのちの木”ではないかと思いました。いのちある私たちが生きていく間に遭遇するいろいろな事柄を自分一人のものとせず、他のいのちを輝かすために分かち合ってともに豊かな深いいのちを生きていけるよすがとなれるものと思った」と。

私は、“いのちの木”の前で静かに目を閉じていると、大きな力で私がケアしてもらっているような気分になった。

 

病院の環境

 

病院は、町はずれの緑・川・動き(遠くに自動車の動き)の自然に囲まれた静かな環境の中に悠然とした姿を見せている。40年前に建てられたドイツ建築で、窓が大きくて廊下の幅がとても広い。2階の渡り廊下には両方の窓際に椅子やテーブルがあり、そこで患者・家族・見舞い客が話をしている様は“ここはどこ?”と思わせる空間が広がっている。その壁には、ほのぼのとした絵てがみが展示されていた。廊下にはボランティアさんによる手作りのものが置いてあっても全く障害にならず、温かいものを感じた。

カトリック系の病院であるが宗教にはこだわらず患者を受け入れている。

外から入り不安な気持ちであったが、廊下ですれ違う時「おはようございます」「こんにちわ」「ご苦労さま」とか軽い会釈をされる。何だかずっと以前から私もここの職員?といった感覚になるくらい、皆様が心良く温かく受け入れて下さりほっとした。このような対応は一朝一夕でできない。聖マリア病院の理念を職員一人ひとりがわきまえ、日頃から人間を大事に思うという心が部外者に対する態度として自然に出てきているものと判断し、本当にありがたかった。自分達も、他からの研修、見学に見えた時の接遇の学びをさせていただいた。

 

 

 

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