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一人ひとりを大切に思う心

 

広島大学医学部附属病院

児玉 信子

 

患者受け入れの姿勢

 

病院の玄関を入った途端私は驚いた。外来待合室がとても静かでワサワサしていない。事務の人の声も静かである。フロントで目線を合わせ笑顔で患者一人ひとりに対応され、スムースに自然に時間が流れているのである。マイクによる大きな声で患者さんを呼ぶ声が響かない。ゆったり、穏やか、ほっとする場所という感じである。

病棟においては、病棟ナースステーション入り口のドアに

=ホスピスとは=

「人の寿命は限りあるもの、命の灯が消えようとしている段階では無理にその流れをせきとめるのでなく、患者の気持ちに寄り添うことこそホスピスの精神である」と貼り紙があった。

それを裏付けるかのように、朝、深夜からの申し送りでの問題点をショートカンファレンスで医師と看護婦が患者の訴えを患者の言葉で表現し、どうしたら一番いい状態にその患者さんをもっていけるか、患者の気持ちはこうなんだ、ではどうするかと個々の意見を出し合いアセスメントされ、患者のニーズに沿おうと努力されていた。昼のカンファレンスで、今後の方向性を見いだし個人のカンファレンス記録に残し引き継がれている。

患者の残された人生の質を高め、その人がその人らしく生きるための、よりよい援助を提供するため、週一回他職種(医師、看護婦、神父、栄養士、薬剤師、医療相談者、ボランティアコーディネーター等)と合同カンファレンスが行われている。それぞれの立場からチームアプローチをし、その人のニーズを満たし、全人的ケアをしていこうとされている姿勢が伺えた。根本は、どうしたらその人らしい人生の仕上げができるかである。

ボランティアに関しては、病院全体で62人のボランティアの人が登録されており、主にホスピス病棟に関わっているとのことである。

毎日午後3時ティータイムの時間、患者の要求に合わせコーヒー、紅茶、ジュースなどの接待をされている。談話室を拠点とし、時には話し、歌い、ピアノ演奏、オカリナの演奏と、日々のメニューが変わるのである。患者さんも外からの空気の送り込みを心待ちされ、和やかな時間を持たれる。時には、退院され在宅を受けておられる患者、家族も輪の中に入られる。実習中、そういう方ともお会いできた。

園芸専門のボランティアもおられ、病棟つづきにあるガーデンの手入れをされている。「年中お花が絶えなくて、亡くなられた時そこから花を取って来て小さな花束を作り、周りを和紙でフラッピングして患者さんの手の中に入れてお見送りするのですよ」と川口シスターの静かな笑顔の話である。ホスピスでは、ボランティアの活動が縁の下の大きな力であることを実感した。

栄養士のお話の中で「ホスピス病棟患者への配慮として先ずカンファレンスに参加し、患者の情報把握をし患者の希望を取り入れる」とあった。例として胃瘻形成の患者で口からの欲求を満たすために、患者の分泌物を採取し胃内の温度に温め、その食物が溶解するかどうかの実験をした、と言われた時は感動した。また、四季ごとのイベント(餅つき、ひな祭り、節句、七夕、夏祭り、月見など)前は、ボランティアの方へ感染など衛生面での講習を行っている。

 

 

 

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