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目標3・4について

がん患者の身体的症状のひとつに消化器症状がある。中でも口腔内トラブルのために食のニードが満たせない場合がある。経口摂取できないために唾液の分泌が更に低下し、トラブルを悪化させていることが少なくない。このような状態にある患者に対して、口腔内を2〜3倍に希釈したオキシドールの水溶液で、綿棒を用いて保清されていた。口唇の乾燥に対しては、市販の白いごま油を70〜80℃で10分くらい暖めたものを使用されていた。

スキンケアについては、2週間に1回の割合でETナースが来棟され、患者の皮膚の状態を観察し適切なケア方法をアドバイスされていた。その対象となった患者は、下半身麻酔があり紙おむつを使用されていた。そのため皮膚は、膠原繊維の質の低下や水分の低下や皮脂の分泌の減少がみられ、浸軟の状態にある。

そこで病棟では、Bed Soreアセスメント表を用いてケアにあたっていた。これは、誰がケアしても前回の皮膚の状態が分かるように皮膚の状態を図で表し、創の状態や使用薬剤、アセスメントなどの欄がある。処置ごとに記入するようになっているため、状態の経過も分かりやすい。

このような身体的痛みに加え、社会的、精神的、霊的痛みに対して看護婦さんはベッドサイドで傾聴されていた。患者の訴えていることにダイレクトで答えるのではなく、本当の患者の気持ちを聴くことが重要である。そのためには、患者が気持ちを言いやすい状況を作っていかなければならない。

ステッドフォードは、継続看護ユニットにいる患者が、スタッフが彼らの話を聴く時間を持ってくれたことで、スタッフと患者、スタッフと患者の家族のコミュニケーションに満足したことを発表している。それには、患者やその家族が、スタッフが患者に話しかけたり、患者一人ひとりの話を聴いてくれる時間を持ってくれたという事実に感激していたことや、スタッフから患者の家族に近づいて会おうとする好意に感謝していたと言っている。

病棟の看護婦さんは、嗄声があり声が出ないことでイライラしている患者のベッドサイドに腰掛け、「今日の調子はどうですか、イライラしますよね」と声をかけながら、患者の訴えを聴かれていた。その看護婦さんの言葉には、その人の存在感と雰囲気が十分含まれていた。

この看護婦と患者との場面を通して、患者とのコミュニケーションにおいて、聴くことの重要性を再認識するとともに難しさも実感した。とてもオープンな出だしで、患者が話せる時に話したいことについて始められていたため、患者は自分の話題を提供できていた。

患者の基本的な考えや感情を簡単明瞭な言葉に言い換えながら、患者の知覚的認識の相互確認が必要である。看護婦から聴くばかりでなく、患者の次に出てくる言葉をゆっくり待つ沈黙もとても大切である。しかし、患者に言わそうとする沈黙は適切ではない。患者が受け入れるかどうかは分からないが、患者に負担がないようにアイデアの提示をしたり、ユーモアによって気分をリラックスすることも大事である。

コミュニケーションを考えた時、看護婦は感応レベルでは純粋であり、患者を尊重し、共感的な理解ができることが必要である。それは、患者のおかれた状況をストーリーとして受け取れ、わかっていけることである。行動レベルでは、患者のために看護婦の自己暴露や患者の悩みを発散してもらい、それを看護婦が受け入れていく感情のカタルシスなどといったことが看護婦に求められる。

 

おわりに

 

短い実習であったが、緩和ケアナースのあるべき姿を学ぶことができた。講義で学習したことが、実習によって実際と結びつけて考えることもできた。

<参考文献>

1) R・Cマッケイ他編、川野雅資他監訳:共感的理解と看護、医学書院、1991

2) ジーン・ルートン著、浅賀薫地訳:ターミナルケアにおけるコミュニケーション、星和書店、1997

 

 

 

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