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この思いの根底には、私自身が家族を本当にケアが必要な対象として見ていなかったことにあると思いました。大事な家族の一員が病気になって精神的・身体的にも辛い時に、家族は患者さんが入院したことで今までの生活スタイルの変更を余儀なくされます。家族の大変さに本当の意味で気付いていませんでした。このことを学んだことで、自然に家族への労いの気持ちや、今までの生活のこと、今の生活はどう変わり、何を苦痛と感じているのだろうかと思い巡らせるようになりました。まだ行動レベルでは発揮されないことが多いですが、これから行動も取れるようになりたいと思います。

 

チームアプローチ

 

緩和ケアに限らず質の高い医療を提供しようという時、チームアプローチは必須です。病棟では医師、看護婦、ボランティア、チャプレンなど多職種の方が大勢働いていました。その方の一人ひとりが患者さんと家族を支援していました。多職種で人数も多くなるとまとまりがつかず、自分の思いで対象者に関わろうとする人もでてくるのではないかと考えていました。しかし、心配の必要はありませんでした。チーム間が上手く調整され、効果的に関わりが持たれていました。この上手くいっているのには一人ひとりの意識にわけがあると考えました。そこで、どういう思いでチームアプローチについて考えているのか、何人かのスタッフに聞かせていただきました。どの方も「お互いの立場や専門性を尊重して接している」との答えでした。この考え方に基づいているのか、自分の意見や思いを言い合える環境作りがなされており、意図的に婦長さんなどが配慮していることに気付きました。また、なかなか一緒にカンファレンスに参加できないチャプレン(土日しかこられない)やアロマテラピーの方とは交換日記があり、お互いの情報交換の場になっていました。ボランティアの代表と婦長さんの簡単な申し送りも行われているとのことでした。私の実習中はありませんでしたが、スタッフの仲が良すぎることでみんなの意見が一致して、一方方向でしか患者さんを見れなくなるという危険性もあり、どう解決しているのかなと思いました。

 

大学病院における緩和ケアの方向性

 

実習前に講義で学んだことでしたが、実際の現場で行われている姿を見て、いかに今まで自分が拙いケアをしていたのか、知識を本当の意味で理解していなかったことに気付きました。また、目標以外にも学び、心に深く残ったことがたくさんありました。それは、ケアに向かう時の態度です。まず、自分の人間観・死生観・看護観を持つこと(再確認すること)。患者さんの力を信じ側にいること。この“側にいること”の大切さは患者さんに教えていただきました。

今回の実習は、医師や看護婦が患者さんや家族に関わっている姿から学ぶスタイルを取ることが多く、患者さんとの関わりは雑談のようなものでした。しかし、ある患者さんは実習が終わる日に「いなくなると寂しい。話しを聴いてもらえるだけで嬉しかったの」といってくださいました。自分では何をしたという気持ちはなく、むしろ何もできなかったという思いが強かっただけにこの言葉をいただいて嬉しかったです。何もできなくても側にいることの大切さを学びました。

また、ある看護婦さんから訪室時に「病室ではなく、患者さんの家に伺うのよ」と教えていただきました。患者さんと呼んではいますが、○○さんというその人を尊重し大事にしていくことで、おのずと出てくるんだなと思いました。これは病棟での多くの物品の工夫からも伺えました。この工夫の一つ一つが患者さんの立場に立ったもので、工夫された物品の数が患者さんに対する愛情の深さのような印象を受けました。緩和ケアではコミュニケーション技術がないと何事も有効に行えません。これからはコミュニケーション技術を磨いていきたいと思います。以上を踏まえて大学病院での緩和ケアの方向性は、一人の人間として患者さんと接し、まずその人の持つ苦痛を取り除くこと。チームとして患者さんと家族を支えることが考えられました。そのためには、大学病院だからしかたないという意識を捨てること。しかたないというネガティブな感情から、できることをしようというポジティブな感情の転換を図ること。そしてスタッフ一人ひとりがお互いを認め合い、全員がチームで関わることの大切さを認識すること。お互いの意見を交換する場を設けること。自分以外の考えをまず批判せず受け入れる努力をすること(自分以外の意見は受け入れられないもの)、などがチームアプローチする上で大切であり、今足りないところではないかと考えました。どこまでできるかはわかりませんが、実習の学びを小出しにして、少しでも受け入れられるようにしていきたいと思います。

 

 

 

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