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患者と関わる限られた時間の中で、相互理解を深め信頼関係を築くことは簡単なことではありませんが、看護者が患者に何をする人であるのかを伝え、患者の話を何でも聞きますというメッセージを送ることの大切さを学びました。患者は一個人として自分を認めてもらいたいという当たり前の思いを持っており、それに対して真剣に向き合う医療者の姿勢が大切であると思います。自己を認められることで患者の心が癒され、精神的苦痛が緩和されていくことと思います。緩和ケアにおいての癒しは、病棟の設備、環境からも伺えるようにとても重要なもので、患者、看護者間の癒しの関係は患者の苦悩や苦痛を和らげ、セルフケアを高めることができたりします。どんなに対応に困難を感じる患者でも逃避することなく、支持的、理解的な態度で接するように努力していかなければならないと思いました。キューブラー・ロスの「死の瞬間」にあるように、患者の心理過程を理解し、心の揺らぎを受け止めていけるようになりたいと思いました。

また、苦痛には身体的、精神的、社会的、霊的なものがあり、それらは密接な関わりを持っていると考えられます。症状をマネジメントしていく上で、情報の整理やアセスメントは必須であり、患者が主体的に症状コントロールできるようにするために重要となります。医療者として身体的苦痛を緩和するためには、病態と症状緩和に有効な薬理の理解、薬物以外の症状の緩和における知識、技術が必要です。しかしマニュアルにのっとったことのみではなく、講義の中で紹介された、呼吸困難患者に対するモルヒネの吸入や、アロマテラピーを取り入れた方法など、患者に有効と考えられる新たな試みがなされていることに驚きを感じました。型にはまらない柔軟な発想が新しい効果の発見であったり、症状緩和の開発であるような気がしました。身体の苦痛が緩和されることが、精神的苦痛の緩和につながったり、社会的痛みの緩和が霊的痛みを軽減することもあり、医療者はトータルペインの緩和に積極的に取り組まなければいけないことを改めて感じました。日本にはなじみがうすいスピリチュアルペインへの取り組みには、私自身も困惑するところがあり、どのような状況がスピリチュアルペインを引き起こしているのか、どのように関わっていったら良いのか課題が残されました。

実習施設ではしっかりとした宗教観があり、スピリチュアルペインに専門的に取り組むチャプレンがいました。看護者も患者のそばで一緒にお祈りをしていることもありました。宗教観を持たない自分自身が、スピリチュアルペインに対し何ができるのか、いまだ答えが見出せないままです。ただ今は自分の死生観をしっかり持ち、患者に向き合うことでしか対応できないと思っています。

社会的痛みを考えるなかで家族との関係があります。社会構造の変化にともない、家族のあり方も変わりつつあり、家族のとらえ方も実に様変わりしています。ホスピス外来に訪れる人は、自己決定できる本人か血縁の親族がほとんどですが、中には身内とは呼べないような方がおられました。相談者は患者の会社関係の方で、患者には身内と呼べるような方がいないとのことでした。それでも患者のことを大切に思い、患者の終末期をより良く迎えさせてあげたいと思う気持ちで訪れた方々でした。血のつながりよりも精神的なつながりでの家族であり、個人主義的な考え方をもつ人や孤独者にとっては重要な家族と呼べるのだと思います。今後このような方々が増えてくることと思いますので、医療者も家族に対しての認識を改めなければいけないと思いました。

ホスピスではペットの入室を認めているところが多々ありますが、これも広義での家族ととらえることができるのかもしれません。家族が患者の心理に与える影響は大きく、家族を含めた単位としての援助というものが不可欠になることがよく理解できます。また患者の死後における家族への援助も大切なものであり、死別の衝撃を和らげる上でも予期的悲嘆がなされるような関わりが必要であると思われます。

 

 

 

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