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看護の“手”に力を─知識はパワーである─

 

福井赤十字病院

中川 直美

 

はじめに

 

近年、緩和ケアが注目されるようになり、ホスピス・緩和ケア病棟も急速に増加している。当院において病棟開設は未定であるものの、医療者の緩和ケアに対する関心は高まってきており、その必要性も強く感じられている。しかし、緩和ケアに対する正しい知識や技術がない現状である。緩和ケアは本来、特定の施設でのみ行われるものではなく、一般病棟や在宅においても必要なケアである。患者の苦痛を取り除き、充実した生活を支援するために、自己の役割をここに見出し、本研修に参加することができた。研修で得た多くの学びを以下に報告する。

 

自己の看護観と緩和ケア

 

緩和ケアナース養成研修への参加は、自己の看護観の実現への第一歩であると考えている。

私の看護の原点は「手当て」という言葉にある。手を当てることで癒されるような看護婦になりたいと願う。看護婦の“手”には大きな力がある。手の温もりにより心が通い、痛みが和らぎ、癒されることは日常よく体験することである。特にターミナルケアにおいて看護婦の“手”の果たす役割は大きいと感じるのである。しかし、ただ手を当てるだけでは患者の苦痛をすべて取り除くことはできない。「手当て」の方法は数多く存在する。できるだけ多くの方法と強いパワーを手に貯えることが看護婦には必要であると思う。

自己の看護における専門性を考えたとき、強く惹かれるのがターミナルケアである。ターミナルケアに携わりたいという思いは看護の経験を重ねるごとに強くなる。ターミナルケアは緩和ケアの一部である。終末期の患者のみでなく、患者の苦痛を軽減するためには緩和ケアを学ぶことがまず何よりも必要であると考え、本研修への参加を希望した。

本研修参加にあたり、以下の3つの自己の課題を持ち臨んだ。

1. 疼痛緩和が十分得られず苦しみながら最期を迎える患者が多い現状であるが、看護婦として患者一人一人がその人らしく、よりよい終末期を送れるような援助をしたい。

2. 緩和ケアの現状を知り、実際を学ぶことで、自分自身の知識・技術を確かなものにしたい。

3. 当院における緩和ケアの意識を高め、看護の質の向上に努めたい。

実際、緩和ケアの知識など全くというほどない状態での研修参加であったが、研修により考えていた以上に多くのものを得ることができた。終末期では特に「患者を人に戻す」ことが重要といわれる。ひとりの人間として対峙するとき、看護婦一人一人が、死生観・看護観をしっかりと持ち、常に自分自身の人間性を豊かにする努力も忘れてはならない。

 

講義での学び─緩和ケアの基礎─

 

1) 緩和ケアの基本的理念

緩和ケアは、治癒を目的とした治療が無効となった進行がんなどの難治疾患の患者に対して行われる全人的な医療である。さらには、がんやAIDSのみでなく、治療が困難な慢性疾患や支持療法としても適用を考えられている。日本においてはまだまだ緩和医療が正しく認識されていない現状であり、専門性をどのように創っていくか、専門施設でない部分で緩和ケアをどう広げていくかが課題であることと、そのために学ぶことの意義が理解できた。

 

 

 

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