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これまで私が現場で行ってきたことは「症状を取る」ことに目標を置いてしまい、取れたときに何ができるか、何をしたらよいかが考えられなかった。授業では、「症状があることによってADLの何が規制されているのかを知ることは症状マネジメントにおいては最も重要である」ことを学んだが、「常に患者の日常生活の過ごし方に着目している」ことの重要性と「ADL援助はナースの役割である」ことが思考の中で統合された。

実習中、医師の講義の中で、疼痛コントロールの目標を“完全に症状を取ることを追求しすぎると、患者中心の医療でなくなり、医療者の満足の追求になりかねない”とあり、人間の弱さを感じた。また、医師は患者に“苦痛を取り除き安楽になることに全力を尽くす”ことを約束していた。ターミナル期において患者を治すことはできないという考えや、症状緩和の方法が解らず、患者の傍にいることに逃げ腰になりがちだったが、この言葉を聞き、医療者ができることを常に追求し、全力を尽くそうという誠意ある姿勢が大切であることを学んだ。また人間としての関わり合いが必要であり、同じ人間としての死生観や、自分自身を知ること、常に自分に問いかける姿勢を失わないことの重要性を学んだ。死生観や緩和ケアをどう捉え、それらを具体的に表現していけるようにしていきたい。

患者の痛みを把握するときあらゆる側面から考えることが必要であるが、「痛みの認知に影響を及ぽす諸因子として、1)侵害的な身体的因子、2)心理的、3)社会的、4)霊的(スピリチュアル)」があるとされている。そして、それらを包括して「全人的な痛み(Total Pain)」としている(WHO)。そこで薬剤による緩和だけでなく、多方面からのアプローチも必要となる。そのため、他職種による様々な方向から捉えることも必要となり、チームアプローチが有効に行われる必要がある。これまでは、医師と看護婦が中心のチームであった。しかし、家族もメンバーの一人であることを忘れてはならず、また家族は患者以上に衝撃を受けケアを必要としており、患者と同じケアの対象者としてみる必要がある。そして、薬剤師、栄養科、ソーシャルワーカー、宗教家、ボランティア、ハウスキーパー、訪問看護部、PT、OTなど患者が関わる分野すべてがメンバーであり、それらの役割を出し合うことで全人的痛みを緩和することができる。

チームアプローチにおいては患者のゴールを明確にし、それぞれがそれに向かい自立した活動を行っていくことが重要であり、それにはそれぞれの役割をお互いが理解し、尊重し合うことが必要となる。

実習施設においてはチームメンバー全員が時の過ごし方、患者、家族の思いに焦点が当たっており、同じ目標に向かうことと、家族と患者を並列に捉えケアすることを実際目の当たりにし、ターミナル期の患者・家族であるからこそ特に必要であると実感した。患者が病院で過ごす時間は人生の中のほんの一瞬(通過点)であり、これまでの時間や辛い時期をどう過ごしてきたのか、それを共に乗り越え、支え、過ごしてきた人は誰なのか、患者の生活に目を向けていく必要性をあらためて学ぶことができた。

事例検討において、ターミナル期は家で過ごすのが一番だと思い込んでいたことに気づくことができた。これまでは家に帰ることを決めない家族にはもどかしさを感じていた。患者・家族は医療に何を望んで、どこでどのように誰と過ごしたいのか十分に話し思いを知る必要があったが、これは自分の価値観に相手を当てはめようとしていたことが解った。そして、ありのままの家族のあり方を受け止めることが必要であることに気づいた。

患者のキーパーソン、家族の定義については考えたことがなかったが、家族援助の講義において、「家族」とは、「お互いに家族であると認めている」、「切っても切れない関係」である。それは血縁関係だけでもなく、人間、生き物に限らない、たとえば血縁関係以外であったりペットや仏壇のこともあり、他人には決めつけることができないということだ。患者が誰を家族と捉えているか、家族は患者をどう捉えているか、その関係はどうか、どういう役割構造か、リーダーシップは誰が取っているかを知り家族に関わることが必要になる。

家族が様々な問題に悩みながら対処し、適応に至るまでの過程で看護者は共に寄り添いナビゲーションしていく必要がある。

 

 

 

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