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その時は驚きと、食べることのできない患者が輸液もしないでどうして生きていくことができるだろうかと半信半疑であった。実習を通して輸液が腫瘍や悪液質を増長させており、腹水や胸水あるいは浮腫の原因となっていたことを理解できた。疼痛や呼吸困難で苦しみ、死んだほうがましと思っていた患者が、症状がコントロールされ苦痛から解放されると外出ができるようになり、食事を楽しみ、生きることの目標を見出すことができるようになった。このような患者を目のあたりにして症状コントロールの可能性と重要性を認識した。

医師が告知や病状をきちんと説明しないから、あるいは痛みをとるのが下手だからと相手を責めることが多かった。しかし相手を責めるまえに自分達、看護者側にも大きな問題を抱えていると反省させられた。第1に症状コントロールに関する知識・技術不足である。第2に症状に対するアセスメント不足。第3に患者がどのような希望や目標をもっているか、またどのような日常生活をしているかについての情報不足である。進行がん患者は末期になるにつれて、転移による症状も含めて局所の症状から次第に全身状態に変化していく。また腫瘍の広がり、悪液質、全身衰弱などが起こり、それらが原因となり疼痛、諸機能の低下などが起こってくる。その症状の原因を正確にアセスメントし、患者にとっての問題は何か、患者はどのような目標をもっているのかを知り対応する。十分な情報をもったうえで薬物療法・理学療法・食事療法・リラクゼーション・生活スタイルの変更などのマネジメントを行い、常に患者・家族の考え方を聞きながら患者の目標が達成できるように計画し、実施していけるよう取り組んでいきたい。

医師の教育のなかで診断や治療、治癒に対する教育はなされるものの、治らないときどう対処すればよいのか、コミュニケーションをどう取っていけばよいのか方法論がわからず、悩み躊躇してしまう現実があるという。それは医師にかかわらず看護婦も同じであると思う。同じ悩みや問題を抱えているからこそ協力し、助け合わないといけないと感じた。がん医療の中でこれが絶対だという方針決定ができない場合や難問が生じたために日頃からいろいろなレベルでカンファレンスをもち、幅広く意見を交換してコンセンサスを作っていく体制づくりが大切であると、精神腫瘍学専門である内富先生は強調された。

6週間の実習をも含めた研修から多くの学びや気づきを得ることができ、以下のことを自分なりの目標としていきたい。

・痛みの原因や発生機序、痛み治療、鎮痛薬の使い方などについての科学的知識が豊富であること

・患者を全人的に把握する能力を持っていること

・痛みを持つ患者に共感できる感性が備わっていること

・人間性豊かで医療チームの調整役が果たせること

・疼痛緩和に有用な看護技術を身につけていること

・痛みを緩和させたケアの経験を活用できること

・これらを統合して実践していく総合力である。

 

おわりに

 

「忙しいから」「今までだってそうやってきたから」と流されたり、既成の枠にとらわれることなく、また相手に対し「何を言っても無駄」「現状ではどうしようもない」と諦めず、できるところから始めていきたい。一般病棟ではホスピスのように長時間患者の話を聞くことは困難であるかもしれないが、患者の苦痛に常に思いをよせ、ケア等について真剣に話し合うことにより、患者と心が通じるように英国ホスピスの理念の一つであるbeingに繋げていきたい。

講義をしていただいた諸先生方、初めての実習生である私達を受け入れて下さった聖が丘病院のスタッフや患者の皆さま方、忙しい勤務の中研修に出させて下さった病棟スタッフの皆さんに厚くお礼を述べたい。

 

 

 

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