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私の病棟では、医師、看護婦以外にソーシャルワーカー、チャプレン、音楽療法士、栄養課、リハビリテーション科、ボランティアなどたくさんのスタッフが、緩和ケアに携わっています。それぞれがそれぞれの立場で、朝の申し送りに参加し、昼のカンファレンスにも参加しています。そして、自分達が持っている患者の情報は全員が共有できるよう発言もしています。

それにより、医師、看護婦は自分達の知らない患者の一面を知ることができます。そして、その患者にとって一番よいケアが提供していけるのだと思っています。医師、看護婦が知っている患者がその患者のすべてではないということを理解していなければならないと思います。

他部門との連携もこれまでに述べたようにとても重要なことですが、それ以上に、患者や家族に大きな影響を与えるのは医師と看護婦との関係だと思います。医師と看護婦は少なからずいつも些細なことから大きなことまで意見の相違があり、常にディスカッションを繰り返しています。お互いの立場で患者、家族にとって最善と思われることを考えた結果なのだが、どうしても納得できないこともあります。しかし、時間のない患者や家族に対して、いつまでもよい方法を見つけることができずにそのまま退院してしまうことがあり、あとになって私達の中に「あれでよかったのだろうか」という思いが残ります。

医師と看護婦との関係がうまくいっていないと、最終的には患者や家族に最前のケアが提供できないということになります。

私達がいつも考えていなければいけないことは、患者や家族にどれだけのことができるのか、ホスピスで最期の時をどのような形で迎えることがいいのかということだと思います。そのためには、医師だけではなく、他部門との話し合いが不可欠になってくるということを、講義を聞いてあらために考えさせられました。

 

3) 家族援助の方法を学ぶ

ホスピスでは、患者だけではなくその家族を含めたケアが必要である。実際にホスピスで働いてみて、以前、大学病院にいたときには感じることのできなかった家族の絆を身をもって体験しています。大学病院でも同じようにターミナルケアを行ってきたつもりなのに、どうして家族の苦しみに気づくことができなかったのだろうと今になり反省しています。

それだけホスピスというところは、患者だけではなく家族にとっても今までの生活を振り返ったり、残された時間をどのように過ごしていくかを患者を含めて家族全員で考えるところでもあるのだと実感しています。

医療者は往々にして、問題が生じたときに、まず自分達が何とかして解決しなければと思うことが多いと思います。しかし、講義の中で「家族の問題は家族が自然と解決している」という話を聞き納得しました。私個人でも、家族へのアプローチということが苦手で、どのように行っていけばよいか戸惑っていました。家族には私達の知らない今までの歴史があり、家族のプライバシーに立ち入るようで、どうしても深いところまで聞くことができなかったのです。それに、たとえ家族であっても個人個人の考え方があるわけで、その思いに、たとえ主治医やプライマリーナースであっても自分達の考えや意見を押し付けることはできないと思っていました。

今回、「家族援助」の講義を聞き、自分の今までの考えはけっして間違ってはいなかったのだと思いました。しかし、これからは苦手だからというのではなく、家族の思いを聞き、話を聞くことで家族の気持ちが少しでも楽になればという気持ちで接していきたいと思います。

講義全体を通して学んだことは、緩和ケアには、医学的な知識はもちろん必要だが、それ以上に患者を一人の人間としてトータル的にケアできるような看護婦でなければならないと思いました。そのためには、看護婦である私達一人一人が専門家というより、一人の人間としての素直な気持ちで患者、家族に接していけば、その思いは必ず患者、家族に届くということを感じました。

 

 

 

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