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5) 進行がん患者の心理的特徴

進行がん患者の身体症状と精神症状は分けて考えることはできず、常に両方存在している。対応としては身体症状を緩和させてから、精神症状の緩和に努めることが重要である。一般的な悲嘆の反応としては、バッドニュースが伝えられてから2週間で通常の反応に戻ると言われている。しかし、進行がん患者の心に与える影響は大きく、適応障害、せん妄、うつ状態などの精神症状を伴うことがある。

今回実習でうつ病の患者と対面した。訴えの内容から、うつ病の診断基準に当てはまることが理解できた。この場面では傾聴、共感などの支持的療法、抗うつ薬を中心とした薬物療法、リンパマッサージの行動療法を行った。そして、患者の進む方向、安心を保証しながら家族への協力を依頼した。そこには患者を全人的に捉えた医療チームのかかわりがあり、そのことが患者、家族の心を変化させたことを学ぶことができた。

死にゆく人と向き合う時、その人の心に触れることが大切である。私が考える心とは、思いやりと誠実である。しかし、死の直前にあった患者が整髪時、“もういいよ、後は時間の問題だから”と言われた時、この患者は自分の命を数時間と考えていると感じ、その場から逃げ出したい気持ちであった。患者は死に向かって生きているのではなく、死を意識して今を生きている、患者の心と正面から向き合う姿勢が大切であることを学んだ。

 

6) 生活から見たリハビリ

終末期は苦痛緩和を第一に考えることが大切であり、その場合リハビリは回復をめざすため苦痛を伴うという考え方をしていた。そのため、緩和ケアにとってなぜリハビリが必要なのか疑問のまま講義が始まった。途中から今までの自分は何をしていたのか反省させられるほど、講義の内容は新鮮で納得できることばかりであった。

緩和医療の中のリハビリは、細かな生活(ADL)を一日単位で見ること、生活の場である病棟で行うこと、看護婦なしではリハビリテーションは行えず、看護婦は能力を最大限に生かす方法を指導することでADLの自立度が増し、そのことが人間尊重につながることが理解できた。

実習では終末期の患者が、死の直前までいすに腰掛けていたり、トイレに行くための工夫など、患者の生活の場を広げるために、細かな配慮が行われていた。このことからもリハビリはプラスの医学であることを学んだ。

 

7) 看護実践と倫理

看護婦の倫理規定の中で、「看護婦は、人間の生命を尊重し、また人間としての尊厳及び権利を尊重する」と掲げている。そして、医療の場においては倫理的問題に敏感に反応し、患者の立場を理解しながら、解決に向け努力することを怠ってはいけないと言われているが、現状では患者、家族への説明が不十分であり、意志決定をどこまで尊重するかが問題である。

臨床倫理のフォーマットは患者の意向をどうアセスメントするか、医療チーム内の合意、医療チームと患者の合意など、医療の目的を達成するのに有効と思われるが、活用するためにはもう少し勉強が必要である。

緩和医療では患者と同じ目で思いを受け止めることが重要であり、QOLが向上したかどうかは、その人がどれほど自由であるか、快適であるかである。看護婦は患者にとって利益か不利益か、事実に基づいて具体的に説明できるようにアプローチしていかなければならない。

 

8) 諸制度

臨床の場においては、検査、治療に伴う料金、看護料など真剣に考えずに実施していた。しかし、緩和ケア病棟の入院料は、医療をしてもしなくても一日3,800点であり、在院日数の制限もないため、医療チームや経営者の誠実な考え方や対応が重要となる。

 

 

 

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