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そして、医師との価値観の相違、不理解、情報不足を理由にチームアプローチができないと誤解していた。医師、看護婦だけでなく専門的知識、技術を持った他職種とチームを組み個々が役割期待を担うことで患者、家族にとって選択の幅が広がり、よりQOLが向上する。そのことが、全ての患者へ当たり前の医療、看護を提供することに結び付くと考える。

実習でチームアプローチのすばらしさを体験した。カウンセラー、医師、看護婦は情報交換をしながら積極的傾聴、感情の表現を促すため質問に努めながら、真正面から患者、家族と向き合っていた。そこには患者にとって良い医療を提供するための共通理解が得られており、対等に話し合えるコミュニケーションの場があった。医療チームの良いコミュニケーションがスキルとして患者、家族に活かされ、ますますチームとして発展していくことが理解できた。

 

3) 症状コントロール

がん患者の症状コントロールは、看護婦が医師との連携を密にしながら患者の生活を整えるために主体的に取り組まなければならない。今まで、症状をコントロールするということは、痛みを取り除くこと=セデーションを行い意識を低下させること、と理解していた。そのため、便秘、呼吸困難、不眠等については眼中になく、マネジメントすることに看護婦が積極的に関わっていることに驚いた。マネジメントするためには十分なアセスメントと、メカニズムを理解する知識が必要であり、症状のマネジメントの主役は体験している患者であるということを基本として捉えて、患者、家族への教育が重要である。

がん患者の痛みは身体的苦痛ばかりでなく、精神的、社会的、霊的側面を含む全人的な痛みである。このような痛みに対してWHOがん疼痛治療法(3段階)にそって規則的に、持続的に鎮痛薬を使用し、常に痛みから解放することが大事である。鎮痛剤として多く使用されているのはオピオイドである。そのため95%の患者に便秘が持続的に見られる。便秘に対しては予防的に関わることが重要であり、塩類下剤で便を軟らかくし、大腸刺激剤で腸蠕動を亢進させる方法が効果的である。

呼吸困難については、“つらいだろう、苦しいだろう”という思いを受け止めるだけで、どのような苦痛緩和の方法があるのか理解できていなかった。苦痛の緩和判定は患者自身であり、塩酸モルヒネの投与と酸素の吸入が治療の第一であることを実習を通して体験できた。また、苦しくても、痛くても排泄は自分の力で済ませたいという患者の気持ちに対しても、選択の幅を広げられるよう豊かな感性で対応することがQOL向上に結びつく。

ニューロパシックペインは神経因性疼痛であり、鎮痛補助薬が効果があるが、それだけでは不十分なので心理、社会面でのケアも念頭に置き、痛みを取ることに努力していることを伝えるなど誠実に対応することが望ましい。

 

4) 患者、家族ケア

講義、実習を通し、がん患者を取り巻く家族関係は多様化しており、わかちがたく結びついているのが理解できた。私が家族として捉えていたのは血縁家族であり、それは医療者の立場を優先した考え方であった。患者にとっての家族、個としての患者の家族はお互いが必要と認め合っていることである。看護婦は血縁、心情、暮らしの家族など家族関係をアセスメントし、家族全体の人生を完結するような援助が必要である。この時、看護婦の価値観を押しつけず、問題解決しやすいように、ねぎらいの言葉をかけ、患者、家族が自分たちの感情に気づけるように関わることが大切である。感情表出は予期的悲嘆となり、間もなく訪れる死を自然なこととして受け止め、寄り添うことができる。

緩和ケア病棟においてはいろいろな背景を抱えた家族がいた。医療チームは、患者とその家族を1単位として捉え、自己決定を尊重するコミュニケーションと教育が行われていた。どのような家族関係であろうと、システムとしての家族、ありのままの家族を理解することが重要である。

 

 

 

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