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医療者自身が特別に意識しないことがまず第一であるし、地域に緩和ケア病棟の存在を知らせておくことも重要だろう。死が特別なものではなく、いずれは誰にでも訪れるものであること、そして、悲しみを抱える患者や家族を皆が支えることができることを地域に啓蒙することにより、ボランティア等の協力も得ることができると考える。

 

症状マネジメントについて

 

ホスピス実習をすることにより実際に症状コントロールについて学ぶことができた。緩和ケアにおいて、まずその人が最も辛いと感じる症状を取り除くことが基本と言える。そしてその上で、患者自身が終末期をどのように過ごしたいのかを患者と共に考えていく。患者が望む生き方をできるだけ実現できる環境を提供することが、緩和ケア病棟における看護の重要な役割と認識した。患者とのコミュニケーションが重要になってくるだろう。

4年前、胃がんの手術を受けた35歳の女性と実習したホスピスで出会った。最近になってわずかな水分も取れなくなった状況であるが、本人の意志を尊重して症状のコントロールのみ行われている。やつれていく自分の姿を子供たちに見せるのが辛いと涙を流して話す彼女であったが、私にはとても美しく見えた。ナースたちは彼女の希望を叶えるべく、週に3回の介護浴を行い、褥創もなく実に清潔に保ち、希望の入浴剤を使ってQOLを援助していた。彼女は予測された命の終わりよりも随分長く生きることができたと感謝し、子供たちにも自分の死について静かに語って聞かせている。症状をコントロールするとはこういうことなのかと感動した出来事であった。

痛み、不眠、吐き気、便秘、下痢、倦怠感、あらゆる症状を緩和するためには看護婦の細かい観察と医師との速やかな情報交換、的確な指示が必要とされる。24時間患者の側にいることによって患者の必要としていることが何か、感じ取ることができるようになれればすばらしいと思う。また終末期の患者は身体的な苦痛ばかりでなく、精神的にも、社会的にも、自分の存在そのものに関しても苦しむことが多い。看護婦はその辛さを知るとともに、どうすれば解決できるのか、他の職種の関わりを依頼することも考える必要が出てくると思う。

 

チームアプローチについて

 

緩和ケアにおいては全人的な苦痛の理解ということが重要である、ということがよく言われる。どういうことなのだろうか。医師には言えないが看護婦には話せるとか、看護婦には言えないが家族には言えるとか、経済的なことだからMSWにとか、簡単に考えればそういうことなのだろうと考えられる。終末期においてはもはやどういう疾患を患っているかということより、どのように死を迎えるかということが重要なのだ。様々な立場の人が違う視点で患者を見ることによって問題が明確化され、早急に対応することができるようになると思われる。

死にゆく患者やその家族にとって多くの人が自分達のことを支えてくれていると思うとき、辛さを乗り越える勇気が湧いてくるのだと思う。チームの構成員としてはMSW、牧師、看護助手、栄養士、薬剤師、OT、PT、ボランティア、訪問看護などが考えられる。ホスピスの成り立ちの歴史から考えると、今までの施設の中には牧師の存在が多かったが、公立の病院である場合は例えば経験豊かな院長先生が訪問して下さるということでも十分ではないだろうかと考える。

 

家族ケアについて

 

大切な人を失うということにおいて、家族は患者と同じ苦しみを背負っていると言える。あるいは、家族によっては、なかなか最期まで患者と心を通わせることができず、後悔の念に苛まれている場合があるかもしれない。それぞれが違う形で存在する家族を在りのままに受け入れ、悲しみの過程を見守ることが緩和ケアの最後の役割と言えるのではないだろうか。

 

 

 

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