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それではそのときをどう知らせれば良いのか、とても辛く迷うのではないかと思われる。だからこそ、発病のそのときから並行して緩和医療は必要なのだと講義を受けて学ぶことができた。実習においても、自分の病気をきちんと認識した上で最後まで自分の生き方を貫いている患者さんの姿に感動させられ、どんな場合も人は自分の意志で生きる権利を奪われてはならないと感じた。緩和ケアを考える原点はここにあると思う。

 

インフォームド・コンセントについて

 

治癒が困難と診断された場合、大抵はまず家族に告知の有無について判断を委ねることがほとんどと思う。患者以上にショックを受けた家族は、告知しないでほしいとつい言ってしまうが、その後も患者に隠しているということについて悩み続けることになる。医師や看護婦はその場面から目をそらしてはならないのだということを、今回の研修を受けて強く感じた。

患者や家族の最も近くにいる看護婦の重要な役割の一つがここにあると言える。病気が回復しないと知ったとき、その人にとっての新しい生き方が始まるのだと思う。そのような大事な時期に、家族と共に心のうちを話し合うこともできないということは本当に辛いことではなかろうか。看護婦は患者、家族の気持ちを受け止め医師に伝えるという橋渡しの役目をするとともに、医師だけにその責任を負わせるのでなく、告知された後も共に見守っていかなければならない。病名を知らせるとそれで告知はされていると考えがちだが、そうではなく再発や転移も含め症状の変化に応じて何度でも説明をうけ、苦痛に対しては様々な対処法があることを知らされることにより患者はかなりの部分救われると思う。自分の最後をどのように生きるかということを考えるとき、様々な問題が絡み合ってどうして良いのか患者も家族も途方に暮れてしまうのではないだろうか。そのようなとき、ただうなずいて話を聞いているだけでもかなりの部分救われるという。

緩和ケア外来では、病状のみの相談だけではなく、これからの会社での身の処し方や経済的なことまで患者さんの気のすむまで医師が話を聞いている様子が、とても印象的であった。そして、結論は話をしているうちに患者さんが自分で見出しているように感じた。全面的に患者を支えるということもインフォームド・コンセントの中には含まれるということだろう。

 

緩和ケア病棟について

 

治療を継続することが意味を持たないと考えられる場合、そのことを早めに伝えること、どのような症状が現れる可能性があるかということをきちんと話しておく必要がある。しかしその場合にも、症状を緩和する方法は十分にあることを患者に伝えなければならない。はじめから告知がきちんとなされている場合、難しいことではないと思う。しかし、治療を目的とした一般病棟とは目標も異なってくるので、患者、家族の思いにそった環境を提供するにはそれなりの施設が必要とされてくると思う。最後の別れをするのに相応しく患者、家族が思い思いに過ごせる条件を整えた緩和ケア病棟が望ましいと考えられる理由はそこにあるのだろう。

本当は住み慣れた自宅で最期を迎えられることが最も良いことではあろうが、最近ではなかなか難しい場合が多くなってきている。しかし、ホスピスと死が結びつけられて考えられることがまだまだ多い現状では、緩和ケア病棟に移る場合の患者の気持ちは十分に配慮されなければならない。告知されていたとしても見捨てられてしまったと感じる場合が少なくないと考えられるからである。総合病院の場合、受け持ち医が時々訪問してくれるだけでもかなり患者の気持ちは楽になると思う。症状がコントロールされれば外泊や退院も可能であること、家で療養する場合の相談や、生活の面でかなり自由に過ごせるという情報を前もってオープンに知らせておくことも良いと思う。

 

 

 

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