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3) ホスピス入院後の経過

入院時、「末期がんだから仕方がない」「早く終わりにしてしまいたい。どうせ死ぬんだからこんなことしてても仕方がない」などネガティブに物事を考えてしまい、不眠やイライラした不快症状に苦しんでいた。そのような状況の中で「家の方がトイレや風呂がいい」と訴えた患者に対し外出や外泊を勧める対応をしていると、「このイライラがたまらない。このイライラを治してもらおうと思って入院したのに」とストレートな思いや感情を表出された。この誤った介入にスタッフは素直に謝罪すると同時に、患者の苦痛としているところをできるだけ理解しようと接した結果、患者は自分の思いや希望を徐々に表出できるようになり、信頼関係を築けるようになったのではないかと思える。その後外泊を試みイライラした不快感も消失し、7月15日、一時軽快退院となる。

 

4) 考察

H氏は気管支鏡を行った医師より手術が可能であると聞き、手術を受けることを望んでいた。担当医は家族と相談のうえ外科的治療ではなく放射線治療を選択した。最後にH氏が呼ばれ、本人の意志を確認することなく既に決定された治療方針を告げられ、憤りとわだかまりを抱いており、「あの時手術をしてもらっていればこんなことになっていなかった」と話された。80歳という高齢ではあるが、一家の主として生きてきて家を建て、子を育て養ってきたという自負がある。意志決定能力が十分備わっていると思われるH氏に対し、放射線治療に決定した理由を理解、納得できるように説明や話し合いの場が持てていれば、現在の状況をもっと素直に受け止めることができたのではないかと考えた。

 

おわりに

 

2つの事例から学んだことはインフォームド・コンセントの重要性を再認識したことである。従来の医療者側の姿勢が医療不信を生みだし、患者の人間としての尊厳や権利が守られなかった場合も少なくない。人は誰でも自らの人生を選び決定していく権利を有している。選択していく過程のなかで情報が真実でなかったり、情報量が少なければ相応しいと思える選択ができず、間違った選択を強いられてしまうことにさえなる。患者に正しい病名や病状を患者の求めに応じて患者の理解できる言葉で伝え、そのときどきでできる様々な治療法をメリット・デメリットも含めながら説明し、患者が一番納得できる方法を患者自ら選んでいけるように支援していかなければならないと感じた。

 

 

 

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