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このように、心情を理解するような声かけをしたことで、自分たちの気持ちに気づくことができ、血縁家族として最期を迎えることができた。このことは、家族の“ありがとうございました。お陰様で最期を看取ることができました”という言葉から評価される。今回の研修で少子高齢社会、家族観の変化にともない患者を取り巻く家族も多様化していることが分かった。どのような家族関係であろうと家族はシステムであり、総和以上のものである。看護婦は家族のセルフケア機能の向上を図るため、家族の問題解決プロセスを支えることが重要であることを学んだ。

 

進行がん患者の心理的影響

 

がん患者のバッドニュースが心に与える影響として、検査、診断、再発、積極的治療が中止の時であるが、限られた期間の中で人生設計を決めなければならない再発の時期が患者の精神的負担を多くする。症状として、2週間以上気分がすぐれない、不眠、食欲低下、便秘、けん怠感などの身体、精神症状が5項目以上あるとうつ病と診断される。

 

ケース(PCU外来)

患者:49歳、子宮がん再発。“楽になりたい、精神的に疲れた、食欲がない、だるい”と泣きながら今までの辛さを話した。

夫:“家族としてどう対処していいのか分からない、家族は個々に忙しくてかまってあげられない、家族がばらばらだ、精神的に疲れた”と表情硬い。

 

うつ病は“心の風邪”である。うつ病を見逃さないためには、調子はいかがですか、気持ちが落ち込みませんか、と耳と心の両方で聴きながら、患者が感じている感情、恐れの表出を促し、支持、共感し、現実的な範囲で保証を与えることが大切である。この時医療者は痛みを評価せず、患者の痛み、精神的負担を患者の言った通り当然であるとして受け止める必要がある。また、うつ病は、自律神経の一時的な機能不全(気分の変調)であることを伝え、安心させるとともに、よく頑張ったねと価値観を認め、患者から一人の人間へと戻すことが大切である。また、がん患者の心の変化は患者の家族の心まで影響しているが、医療サービスで得られるサポートと家族からのサポートは違うので、家族と連携を取ることが大切である。

このケースでは、カウンセラー、医師、看護婦のみごとな連携プレーにより、患者、家族は笑顔で帰られた。

 

この2つのケースを通し、緩和ケアが充実し質の向上に結び付いたのは、症状コントロールをしながら、患者、家族の自己決定を尊重するようなコミュニケーション技術と、チームメンバー個々の専門性を効果的に発揮したためであることを理解できた。

 

症状コントロール

 

症状コントロールの中でも特に痛みについて、初期・継続アセスメントが適切に行われているかどうかで鎮痛剤の使用方法が変わってくる。痛みは主観的なものであり、常に感情体験となる。患者が痛みを我慢することなく生活を整えていくためには、看護婦の果たす役割は大きい。今回の実習で感心したことは、疼痛コントロールがWHO方式がん疼痛治療法に基づき徹底して実施されていることである。そして、患者、家族教育も同時に行われ、移動・ケア時、患者と相談したり、患者自ら希望、自己コントロールするように目標、ケアの評価が行われていた。疼痛がコントロールされた患者は、いすに腰掛け編み物をしたり、入浴後、目を輝かせて生きている喜びを語っていた。また、口腔ケアについては、施行後患者の表情が健康的に見えた。このようなケアが死の直前まで行われており、尊厳をもってその人らしさを保つことのすばらしさを学んだ。

 

 

 

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