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家族の人生を完結するという視点で

 

千葉大学医学部付属病院

砂堀 真理子

 

はじめに

 

今回、実習病院に国立がんセンター東病院を選んだ。理由は、同じ国立系統であり、国立で初めての緩和ケア病棟であること、講演、雑誌等でチームメンバーの緩和医療に対する考え方に共感したからである。実習の目的、目標は次のように掲げた。

<実習目的>

緩和ケアの実際を体験し、チームアプローチに必要な実践能力を習得する

<実習目標>

・緩和ケアにおける看護婦の役割を理解する

・緩和ケアに必要な知識、技術を習得する

・危機的な状態にある患者、家族のケア

・チームメンバーの役割を理解する

・療養環境について理解を深める

 

実習は内容の濃いものであり目標を達成できた。その中でも特に人間の最期までの生き方をどのように支えるかと、がん患者の心理的影響(うつ病)と症状コントロールについて、コミュニケーションスキルとチームアプローチが大きく影響していることを学ぶことができた。

 

患者、家族ケア

 

終末期にある患者、家族にとって死は避けられないものであり、必ず訪れる。その時をどのように迎えるかに、患者が家族として生きた歴史の影響、結果が現れる。看護婦は患者、家族の個々のおかれている立場を理解しながら、家族全体の人生を完結するという視点で援助することが大切である。

今回、死の直前にバラバラになっていた家族関係が、看護婦の働きかけによって患者の望む尊厳ある死を家族に見守られて迎えることができた。

 

ケース

患者:尊厳ある生き方を希望しながら、長男の卒業試験を気にしていた。

妻:長男の試験と、5月に夫が病気になってから不眠、高血圧のため体調が悪いことが気になり、家に帰りたいと思っているが、傍らにいたほうがいいかどうか悩んでいた。

長男:母親の体調を気にかけながら、自分の試験のため帰ろうとしていた。

 

この時の看護婦は次のような援助を行った。看護婦は患者の身体状況を伝えながら、家族にはなれない、代われないということを明確に伝えた。そして、看護婦の価値観を押し付けないで、問題解決の当事者は本人とその家族であるという姿勢を示しながら、あれもこれもとベストではなくベターを求めてもよいのではと話し、患者と家族を一単位としてとらえて援助した。また、問題を解決しやすいように、今まで一生懸命やってきた自分たちのために動くのもよいのではと、ねぎらいの言葉をかけた。家族からは感情の表出が図られ、死が近づいたころ家族3人の時を過ごした。

 

妻、長男:泣きながら体をさすり、患者に声をかけた。

患者:それに応えるように口を動かし、間もなく亡くなられた。

 

 

 

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