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5) 症状マネジメント

進行がんにおいては根本的原因の治療ができないため、症状コントロールが中心となってくる。病院では検査でがんの進行度を把握することが多い。しかし、患者の訴えをよく聴き、見て、触れることで進行の程度、予後の見通しができることが、医師からの説明と実習を通して実感できた。患者に行われる検査を最小限にするために、患者の訴えをよく聴き、それが意味することを見極める知識、技術が必要だと感じた。私は講義を受けながら、症状マネジメントについて、自分の中で消化できないこともあったが、実習を通して、点滴、輸血の問題など患者や家族の意向を尊重し、それを行うことによって患者のQOLが向上できるかどうかを考え、対応していくことの重要性が認識できた。

 

看護婦として、人間としての私の課題

 

私は実習が終わる際、患者さん達に別れを告げることが辛く、ある患者さんに「また、お会いするかもしれませんね」と思わず言ってしまった。すると、患者さんは「それはないよ。僕はもう長くないから」と話された。ここでは自分の予後が悪いことを知っている患者さんが多い。その患者さんから「日本人は戦争に行って、支那人を随分殺した。死に際に、何か言い残すことはないかと聞くと、どうにでもしてくれと言う人が多かった。自分が死ぬ時、そのように死を受け入れることができるだろうか」と話してくれた。その患者さんは戦争の時、特攻隊に配属されていた方で、友人をほとんど亡くされていた。そのことで「自分は今までうれしいことがあっても、手放しで喜ぶことはできなかった」と話し、戦争の時の恐怖感、辛さ、悲しさをよく話してくれた。その患者さんの青春は戦争と共にあり、それがその人の死を考える根源になっていると感じた。

ホスピスでは自分の死というものを直視できる環境にある。やはり、一般病院より、自分にいずれ訪れる死という未知のことに対して考えることが多いのかもしれない。私は患者さんと<死>について話すことで、看護婦は自分の人生観、死生観が問われる職業だと改めて感じた。

看護婦は厳しい生死の境を歩いている患者や、死の終焉を迎えている患者さんと接することができる。死はその人が生きてきたようにしか死ねないと言われているが、いろいろな人生を歩まれてきた患者さんから学ぶことは多く、自分が人間としてこれからどう生きていくべきかを考えさせられた。今後の私の課題として、悔いることのない人生を送るために、二度とこない<今>を大切に生きることに努力していきたい。

 

おわりに

 

2週間を通し、いろいろな患者さんやご家族、スタッフの方との出会いがあり、たくさんのことを学ぶことができた。そして、スタッフの方々に支えられて良い実習ができたと感謝している。私は最初に立てた目標の80%は到達できたと考えている。後の20%は実際の臨床の中で、理解を深めていきたい。

私は自分が予後不良の病気になったとしたら、できる限り自宅で過ごしたいと考えている。その理由は、自由きままに、人に気兼ねせずに療養生活を送りたいと思うからである。つまり、自分の人生の最後は、わがままに生きたいと思うからである。しかし、今の日本の医療体制の中では、介護者の問題、在宅看護の普及の遅れ等、それを行いにくい現状がある。そこで、ピースハウスホスピスのような理念を持ち、ケアを提供してくれるような施設が全国に広がっていってほしいと、この実習を通して切に思った。

 

 

 

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