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私がホスピスに初めて来た時、F.ナイチンゲールの<病院は患者に害を与えないこと>という言葉に匹敵するほど、患者にとって良い環境と思われた。

ある患者さんが、「前医で医療従事者との行き違いがあり、自分の意志に反して、まるでベルトコンベアーに乗せられているように検査ばかりをしていた。ここに入院した時は、もうどうにでもなれという心境であったが、ここで療養していくうちに、もう少し良くなるような気がしてきた。それならもう一度頑張ってみようという気持ちになってきた」と話された。そのような気持ちの切り替えができたのも、この静かな自然に恵まれた環境と、ここの医療従事者の温かい対応によるものだと思う。患者に落ち着いた、静かな環境を提供することによって、患者は今までの自分の人生を振り返る余裕ができる。ホスピスケアは人的、物的にも優れていることが必要だと再確認できた。

 

2) インフォームド・コンセント

ホスピスに入所する患者さんは、病名告知されていることを条件とはしていない。患者さんが入院する際、家族には施設の雰囲気で患者が病名を察知することがあること、また、医療従事者は、患者から質問されたら、<嘘はつかない>という基本的姿勢をもっていることを、あらかじめ家族に伝えておくとのことであった。私は、真実を知りたいと思っている患者には、真実を伝えることが必要だと思っている。真実を患者に伝えなければ、本当の意味で患者を支えることはできないと考えていたため、ホスピスでの対応に大変共感できた。実習中、患者、家族と今後の方針に対する話し合いに同席できた。その際の医師と看護婦の対応は、患者と家族の意志を尊重していたことに感動した。全ての問題に対し、医療者の価値基準で判断しないということは、あたりまえのことではあるが、できていない現状がある。私は自分の価値観を患者、家族に押し付けないことの大切さを学ぶことができた。

 

3) 家族支援

家族にとって大切な人を亡くすということは、かなりの衝撃となって心に残る。ホスピスでは遺族ケアとして、患者さんが亡くなられた後、1か月、6か月、1年後のカードの送付と「しのぶ会」の開催、遺族が自主的に運営する「家族の会」のサポートなど様々な対応をしている。

私は実習中、息子さんをここで看取った母親と会うことができた。「あの車椅子に乗って散歩をよくした。ここに来ると息子を想い出して」と涙ぐまれていた。そして、看護婦だけでなく、いろいろな医療スタッフの方々と息子さんの思い出話をしていた。私は遺族にとって亡くなられた人を思い出すことができる、泣ける場所があることは、愛する人の死を受け入れていくために必要な場合があることを学んだ。ホスピスに遺族の方がよくみえるということであったが、ここは遺族にとって<癒しとなる場所>という印象を受けた。

 

4) 他職種との協働

ホスピスでは医師、看護婦、薬剤師、栄養士、MSW、看護助手、宗教家、調理師、環境整備員等約50名のスタッフと教育されたボランティア約70名がチームとなり、同じ理念を持ってケアを提供している。

毎日の申し送り、カンファレンスは医療スタッフ全員が参加し、積極的な意見交換をされるなど、そこではスタッフの上下関係はなく、良きパートナーとしてケアに取り組まれていることがよく理解できた。そして、患者のケアを通して、多様な価値観を持っている各自が、お互いの違いを受け止める柔軟さを持って対応することの必要性を実感できた。

末期患者の食事としてのターミナル食についても、患者さんに提供する最後の食事となるかもしれないと考え、<この日、この時の食事を一口でも美味しく食べていただくために>と様々な工夫をされていた。この栄養課の方々の努力も、どのような医療を提供したいかというホスピスの理念に基づいていることがよく理解できた。私は実習中、ボランティア体験をすることができた。この体験は、客観的にボランティアの立場から医療従事者をみることができ、看護婦としての役割に謙虚にならなければと感じた。

 

 

 

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