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MSWは、心理社会的視点によりアセスメントし援助しているということをうかがった。常に主体を患者本人にあて、かかわりをもっている。カンファレンスに参加するなかで、必要な情報提供や交換の場としている。患者の入院相談から担当し、問題点を見失わないよう心掛けている。麻薬の定数管理や薬剤処方では、薬剤師とのかかわりは大きい。緩和ケア病棟に入院している患者の全身状態は、進行性で変化しやすく薬剤の変更も多い。そのため薬剤処方を、1日分ずつ毎日病棟に届けられるシステムになっている。

チャプレンの役割は、年間を通しての施設での行事や礼拝のとりまとめ、説教、入院患者の訪問などである。患者に向かい合う時の姿勢として、患者と共感をもつ患者の語りたいことを聞き、喜び悲しみを共にする。聞こうとする態度をみせる、聞いてあげようなんて思いでは患者とのつながりはもてない、聞かせていただくという謙虚な思いが大切であることを学んだ。何人もの患者のベッドサイドで、チャプレンが優しいまなざしで患者に接しているのをみかけた。患者の安らいだ表情が印象的だった。

緩和ケア病棟に入院中の患者へのリハビリにかかわる作業療法士は、身体機能回復訓練というのではなく、精神面でのかかわりに重点をおいて、リハビリすることが楽しみにつながるように働きかけている。希望をもたせたい、訓練というより活動を考えて何かを造りだすことで、残された時間を大切にしている。チームの中心となる看護婦が、各専門分野の人たちと協力し合うことで、患者中心に援助されるようお互いの立場を理解し、かかわっていることを学ばせていただいた。

 

3) トータルケア

信愛病院緩和ケア病棟では、週2回入浴介助を行っている。それ以外の日は、清拭や足浴などで保清している。実際に入浴介助に入らせていただき、ケアの質の高さを実感した。浴槽の中に皮膚の落せつ(あか)がほとんどなく、陰部・手足にまでケアが行き届いていた。入浴する患者のうれしそうな顔、穏やかな表情をみて、終末期にある患者ケアについてこれまで固定観念をもっていたことに気づき、今後のかかわり方として考えていかなければならないことを教えられた。

患者のベッドサイドでは、看護婦も医師もゆっくりと腰掛け、患者の訴えに耳を傾け、ゆったりとした時間を大切にしている。一般病棟では感じることのできない空気の流れを感じることができる。コミュニケーションを通し、精神面での援助を自然にこなしている様子に、特別な教育があるのかうかがったところ、特別な看護体制をとっているわけではなく、日常の業務をこなしていくなかで、患者からスタッフが自然に学んでいるということである。緩和ケア病棟での看護教育を考えていくうえで参考にしていきたいと思う。緩和ケア病棟では、モニターによる患者の監視や管理はない。自分の目でみて看護判断することに重点をおいている。酸素吸入、薬剤の使用なども医師との信頼関係のもとに、看護婦の判断にまかされているところもある。私などは、多くの医療機器に囲まれているのがあたりまえの環境にいて、患者と向き合うという基本を忘れてはいけないと気づくことができた。

 

4) 家族ケア

信愛病院緩和ケア病棟では、入院時迎え入れた患者や家族の方々のポラロイド写真をとり、カルテに保存している。患者との関係をスタッフ全員が知り、顔を覚えることで、面会時“あの人誰でしょう”ということのないようにするためである。カンファレンスに家族の方に参加していただき、病状経過、ホスピスを希望した理由、今後の希望など確認し、スタッフとの共通認識をもつことに努力している。家族もここでは自分たちの役割を確認しながら信頼関係を築いている。病状悪化に伴い、家族も精神的に苦しい立場におかれるが、医療スタッフがサポートしながら見守っている。プライベートタイムという札を病室の入り口にかけ、患者と家族の方が時間を大切にできるようにと心くばりがあり、そうした場面をたくさんみてきたが、細かい配慮が家族ケアの充実につながっていることを学ばせていただいた。

 

 

 

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