また、欧州方面向けの貨物を台湾もしくは香港でのトランシップによって取り込むことも考えられるが、この場合は既存の韓国航路と貨物を取り合うこととなる。
このため、台湾・香港・東南アジア方面との航路開設には、長崎県で生産・消費されるコンテナ貨物が現在より増加することが前提となると考えられる。
(2) 地理的優位性を活用した上海等へのシャトル航路
これまで述べてきた長崎港周辺で生産・消費されるコンテナ貨物を対象とした航路においては、北九州港や博多港等との競合関係が絶えず発生し、輸送コスト全体に占める国内輸送コストと国際海上輸送コストの相対的な比率によって、長崎港利用によるコスト低減効果も大きく変化することとなる。
これに対して、中国(特に上海)に近接するという長崎港の地理的特性を活かし、下関港の韓国航路で行われているような国際複合一貫輸送サービスを提供することにより、関東・関西方面と中国との間において、航空輸送より安く、海上輸送より所要日数が短いという他港にはないサービスを提供し、差別化を図っていくことが考えられる。
こうしたサービスが提供できれば、日中間に高度な国際分業体制やサプライチェーンマネジメント(SCM)を構築することに貢献し、九州全体はもちろんのこと、日本全体においてその効果を活用することが可能となる。
今回実施したアンケート調査によると、長崎港において利用が考えられる相手地域として、長崎港を利用したいとする企業のうち54.9%が中国(上海)をあげており、上海方面との輸出入において長崎港利用への期待が大きいことが分かる。しかしながら、長崎〜上海にシャトル航路が開設された場合に想定される利用形態として、関東・関西方面との中継輸送や国際分業の促進等をあげた企業は必ずしも多くない。このため、既存の韓国航路の活用や中国航路の拡充、貿易促進施策などを推進し、長崎港周辺に立地する企業における中国との貿易実績を蓄積した後、今回のアンケート調査において関心を示したような企業が牽引役となり、共同で新たな貿易形態や輸出入ルートの開拓を進めていくことが必要になると考えられる。
以下では、投入する船舶をいくつか想定し、概略的な所要時間、運航スケジュール、リードタイム等の検討を行う。
想定した船舶の速度によって、次の4ケースを設定した。
ケース1:従来の長崎上海フェリー並みの航海速力22.3ノット
ケース2:日本最速の長距離フェリー※1と同等の航海速力29.4ノット
ケース3:海外で実用化されている超高速フェリー※2並みの航海速力35.0ノット
ケース4:テクノスーパーライナー(TSL)の実用化目標航海速力50.0ノット
※1:敦賀〜小樽間の新日本海フェリー「すずらん」「すいせん」
※2:オーストラリア本土〜タスマニア島間に投入されたウェイブピアサー型高速フェリー「デビルキャット」はトラック24台、乗用車85台積載時の航海速力が37.5ノット