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1973年にイギリス軍が南西アジアから撤退するにあたり、王室海軍はシンガポール北部のセンバワン港にある王室海軍ドックの所有権を港湾庁に移管した。1974年、センバワン港はフリー・トレード・ゾーンに指定され、港湾庁が所有し管理する5番目の港となる。

シンガポールの6つの港湾は、それぞれの役割を分担し、特色ある港湾・港運サービスを提供している。その背後には、港湾庁がシンガポール全体の貿易の動向を念頭におき、政府の経済計画に基づいて戦略的にこれらの港湾を建設し、所有し、運営するという中央集権的な統制型の管理システムが機能していることは言うまでもない。

 

4. シンガポール経済を牽引する公企業と民営化の方向性

 

1985年3月、シンガポール議会において、民営化プログラムが公表された。これは、1980年代にシンガポール経済を牽引するのは政府ではなく民間部門であるという政府の考え方を如実に表していた。この出来事は、すでに1970年代中頃に政府のイニシアチブのもとに始まった、経済からの公共部門の漸進的な撤退を公式に認めるものであった。

 

(1) 重層的な公企業の構造

シンガポールの公企業は、法定機関とその監督下におかれる付属機関、および3つの持ち株会社の監督下におかれる機関に分けられる。3つの持ち株会社には、それぞれ監督官庁がある。MND持ち株会社(MND Holdings Co. Pte. Ltd.)は 国家開発省(Ministry of National Development)の監督下に置かれ、シエン・リー持ち株会社(Sheng-Li Holdings Co. Pte. Ltd.)は国防省(Ministry of Defence)の監督下に置かれ、テマセク持ち株会社(Temasek Holdings Co. Pte. Ltd.)は 財務省(Ministry of Finance)の監督下に置かれている。テマセク持ち株会社は、海外の企業へシンガポール政府が投資を行う時に資金を経由させるシンガポール政府投資会社(Government of Singapore Investment Corporation)も監督している。

3つの持ち株会社に所有されている企業は、事実上、完全に政府の所有であるか、あるいは部分的に政府の所有となっている。テマセク持ち株会社は、部分的に政府の所有となっている企業を2社持っている。すなわち、国際貿易会社(INTRACO: International Trading Corporation)ならびにシンガポール開発銀行(DBS: Development Bank of Singapore)だが、これら2社もその傘下に完全に所有する子会社と、部分的に所有する子会社を持っている。これら以外にも、法定機関、政府が直接的に所有する企業、間接的に所有する企業が多数あり、さらにそれぞれの企業が傘下に多くの子会社を所有している。このような重層的な持ち株会社のしくみを通して、シンガポール政府は末端の子会社を直接的に、あるいは間接的にコントロールし、政策遂行の手段としている。

 

 

 

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