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しかし次第にコンテナ船社の経営には、グローバルな視点を導入せざるを得なくなってきている。一つには、4節で指摘したように、コンテナ船社の水平的統合戦略に基づくアライアンスが地域市場を越えてグローバルに形成されてきたことである。アライアンスに参加していない船社も、従来は行動していなかった航路への参入を現実のものとしてきており、さらに従来より世界市場を視野にいれて行動してきた船社がある事、などの事情は、コンテナ船業の経営が地域的な部分均衡論的発想に止まることを困難にしつつある。もちろん同盟と地域航路協定に裏打ちされた制度的枠組みが一気に崩壊する事はないとしても、経営面からは、徐々にグローバル・マネジメントへの発想の転換が生じるであろう。

そこで、今ここでバーチャルなレベルで、世界的規模のコンテナ船市場の存在を仮定しよう。太平洋市場、ヨーロッパ航路市場、大西洋市場は存在するけれども、それぞれの市場の構造は同一で、行動のみが相違すると考えよう。すなわちグローバル規模での行動相違型市場が、三大市場の往復航路について成立していると考えるのである。

 このような仮定の下で、1993年第4四半期から1996年第4四半期までの13四半期間に関わる6つの航路市場のパネルデータ(78サンプル)を用いて、行動相違型ラグ反応モデルを計測する。つまり6つの航路市場の定数項のレベルが共通の値をとるという仮定の下で、決定因の係数の値が航路市場ごとにどのように異なるのかを確認しようとしているのである。行動相違型ラグ反応モデルを選んだのは、考察した三大市場の中で、太平洋市場と大西洋市場において有効であるとして認められらモデルであるからである。いうまでもなく、グローバル・マネジメントの発想はこの考察期間の初期から存在したわけではなく、その末期において芽生えてきたものである。その意味でこのような考察は、すでに断ったとおり、現実のものではなくて、あくまでも仮想的なシナリオに基づくものである。

この考察期間の間に、コンテナ船業がグローバル・マネジメントを展開していたとしたら、どのような運賃決定メカニズムと産業組織が機能していたのであろうか。その結果は、図表I-2-10に示されている。その特徴を、現実に展開された地域分散的経営に基づく3節の考察結果(図表I-2-3I-2-4I-2-8参照)と比較すれば、以下の通りである。

・ 運賃決定の作用は、係数の値から見て非弾力的レベルに止まっており、決定機構全体が安定的に機能している。

・ 「コスト」が、フルコスト原則のもとで十分に機能しない点は変わっていない。

・ 「船型の大型化」は、グローバル・ベースで規模の経済性を実現している。

・ 「需給比率」は、大西洋東航市場を除いて、合理的に作用している。

・ 「垂直的統合の戦略効果」については、ヨーロッパ航路西航市場がほぼゼロに近いマイナスの  効果を生む以外は、好ましいプラスの効果を創出している。すなわち、6航路のうちで5航路までが、プラスの効果をもつ。

 

 

 

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