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第2章 ルーマニアの地方制度

 

1 概観

 

ルーマニアは東南ヨーロッパに位置し、面積23万7,500平方キロメートル、人口2,279万人の国家で、東欧では2番目に大きな国である。首都はブカレスト(ルーマニア語読みではブクレシュティ)、公用語のルーマニア語はラテン系の言語で、ローマが1〜3世紀にかけてこの地を征服した際、原住民のダキア人と混合してできたのが現在のルーマニア人である、とされる(ダコ・ローマ起源説)。欧州では珍しく、国土は山岳部(31%)、丘陵地帯(33%)、平野部(36%)と地形の変化に富んでいる。黒海、ドナウ・デル夕、バラガン平野、カルパチア山脈が走り、自然は極めて豊かである。ブカレストからブラショフ、シナイア、プレデアルなど保養地に向けて汽車で北上すると、まるでお伽噺の世界へ足を踏み入れたような錯覚に陥る。北東部のモルドヴァ地方は、中世の壁画が今も残る修道院で知られ、北西部のマラムレシュ地方は文化人類学の宝庫と言われるほど、自然の美しさと人々の心の素朴さが際立つ。

民族構成はルーマニア人が89.47%で、少数民族としてハンガリー人が7.12%、ロム(ジプシー)人が1.76%、その他ドイツ人、ユダヤ人、ウクライナ人、セルビア人、ブルガリア人、トルコ人、タタール人、リポヴェン人などが1.65%をしめる。他方、宗教別の構成を見ると、キリスト教の正教徒が86.6%、ローマ・カトリックが5.0%、プロテスタントが3.5%、ギリシャ・カトリック(東方帰一教会、合同教会とも呼ばれ、東方教会である正教とローマ・カトリックが融合したもの)が1.0%、ユニテリアン(三位一体とキリスト神聖の教理を否定し、宗教改革以来トラアンシルヴァニアで布教)が0.3%をしめる。大半のルーマニア人は正教徒で、ハンガリー人の多くはカトリックかプロテスタントである。

ルーマニアのハンガリー人はおよそ160万人と言われるが、その多くが第1次世界大戦直後にトリアノン条約を通じて、ハンガリーからルーマニアに帰属することになったトランシルヴァニア地方に住む。しかも、彼らはコヴァスナ県、ハルギッタ県、ミエルクレア・チューク市、スフゥント・ギョルゲ市、トゥルゴ・ヴィシュテ市、クルージュ市などに集中して住み、文化的アイデンティティを育んできた。そこから、彼らは自らの文化の保護と母語の使用権を求めて自治を主張するわけであるが、問題は、その自治の要求が多くのルーマニア人にとって、やがてトランシルヴァニアの分離運動、ひいてはハンガリーへの帰属運動へと拡大していくのではないか、と映ることである。そのようなルーマニア人のハンガリー人に対する猜疑心が、ハンガリー人のルーマニア人に対する不信感を高めることになり、両民族の相互不信が醸し出されていくのである。両民族のこの不信感が、ルーマニアの地方行政改革を一層複雑なものにしている。

 

 

 

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