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5 今後の課題

 

以上に述べてきたように、本調査研究で対象とした国々は、ヨーロッパ地方自治憲章を準用するかたちをとりながら、一応地方制度の枠組ができあがっている。その意味では、体制移行諸国における地方自治制度は、大陸型という表現よりも、むしろEU型と呼ぶ方が適切かもしれない。しかしながら、現制度の下での運用にはまだ問題も多く、それぞれの国に適した安定した地方制度を構築していくためには、これからも試行錯誤による努力が必要であろう。

今後、そのような地方制度の構築がどのような過程を経て、どのような改革を実現してなされていくかは、大いに興味ある課題である。より具体的にいえば、急激な改革を指向した国と緩やかな改革路線を選択した国は、いかなる理由でそうしたのか、それぞれの結果ほどのようなものか。急激な改革は理想への大きな接近を試みた反面、大きな混乱を招く可能性が高いであろう。他方、緩やかな改革は、旧体制の遺物を多く残し、それが理想の実現の障害となる可能性も否定できない。スムーズに大規模な改革を成し遂げ理想へもっとも接近しえた国はどこか。

さらには、体制移行諸国の多くは、これからも試行錯誤と学習を繰り返しながら、新たな制度を構築していくと思われる。現在、それらの諸国は、それぞれの置かれた条件に対応しながら、優れたシステム構築の競争をしているといった方が適切かもしれない。その状況をつぶさに観察し、成功例と失敗例を分析することによって、地方制度を規定している要因と改革の戦略を把握することである。その際、重要なことは、それぞれの制度ないし改革を規定している各国に固有の地理的、社会的、文化的、伝統的な要因と、人為的な要因とを明確に区別し、後者の要因を明らかにすることであろう。

 

(森田 朗/東京大学大学院法学政治学研究科教授)

 

 

 

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