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月相談には難聴の有無について結論を出すことが期待されている。「しばらく様子をみて」と後に延ばさずに1歳前後には専門機関での検査を受けるようにしたい。現在では、新生児の他覚的聴覚スクリーニングが試みられ、生後直後に難聴が発見されると、首が座った4カ月児頃から補聴器の装用などのリハビリテーションが始められている。

 

表1 幼児聴力検査の進展

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5. 難聴が幼児の発達に及ぼす影響

 

乳児期には、聴覚を通じて母親の優しい語りかけが乳児の耳にはいる。この時期には、母親の音声は母親への愛着行動を育み、子どもの情緒的な安定を図ることができる。また、声をかけると「アー」と呼応するなどコミュニケーションの基礎となる関係が作られている点で重要といえる。そこで、乳幼児に母親の音声を耳にしながら母子コミュニケーションを楽しんだ経験が乏しいと、子供の基礎的な人格や情緒の育ちにも影響を及ぼす。たとえば、高度難聴が3歳近くまで見逃されていると、人に関心が乏しく、意志疎通が困難など自閉症(広汎性発達障害)と誤るような行動が観察されることもまれにある。

3〜4歳まで中等度難聴に気付かずにいた幼児では、言語発達について「ことばの数が少ない」「文章に続かない」「会話にならない」「発音に赤ちゃんことばが残る」などの問題を両親が心配して相談にこられることもある。

高度難聴児では、語彙、文法規則、運用規則、発音・発声、コミュニケーションについて自然学習が困難な子どもも多く、体系的な発達援助が必要とされる。専門家と相談しながら、個々の子どもの状態に合わせて発達を援助することができる。

ところで、母親に聴覚障害があり、乳児期から多くの視覚情報(手話・場面情報他)を取り込んで養育し、ことばの育ちを支えている場合には、母子関係や基礎的な人格や情緒発達に問題が生じることは少ない。つまり、難聴の障害が幼児期の発達に影響するのでなく、難聴児にわからない方法で養育関係が持たれていることに原因は帰する。

そこで、音声言語のコミュニケーションの学習は、補聴器を徹底して使用した上で視覚情報を配慮した養育関係を基礎において、進められることになる。このように難聴幼児のリハビリテーション指導は、言語の発達にとどまらず、情緒的成熟、自我形成、社会性など子どもの発達全体に及ぼす影響を念頭に計画される必要がある。

知的発達障害をもつ子どもが難聴を併せ持つと、ことばの獲得はさらに難しくなるといえる。聴覚利用を後回しにせずに、とくに教育環境を整える意味からも積極的な補聴器装用,聴覚活用を行いたい。

 

 

 

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