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話などの他の言語理解手段の補助のみとなることもあります。先天聾の人における人工内耳の効果は本人が聴覚をどれくらい活用したいと考えているかや、それまで補聴器をどの程度使用していたかによって大きく左右されますので、後天性の失聴の方々に比べて大きなばらつきがあり、事前にどの程度の効果が得られるかを予測するのはけっして容易ではありません。それでも、日常生活の色々な局面で人工内耳をうまく役立たせている方もありますので、成人先天聾者に対しても人工内耳は禁忌ではありませんが、以上のような限界を本人や家族が十分に理解され、それでも本人に人工内耳に対する強い意欲がある場合にのみ手術に踏み切るべきであると考えます。

 

3)外来受診から手術を決めるまでの過程

人工内耳手術を希望して受診さされた患者の手術までの一般的な流れについてまとめてみます。

外来を受診されると、まず難聴になった経過などを尋ね、純音聴力検査、耳レントゲン検査、簡単な語音聴取検査などを行います。人工内耳については新聞その他でかなり紹介され、ある程度知っている人もおられますが、まだ多くの誤解もあります。中には「人工内耳をつけて欲しい」と外来に来て、手術が必要であると告げられてびっくりする人もあります。術後のリハビリテーションも案外知られていません。人工内耳では手術に加えて術後数か月の調整とリハビリテーションが必要です。人工内耳手術を希望して外来を受診される患者さんのうち、このような簡単な問診で外来初診の段階で手術の適応から外れる方もあります。

手術の適応になることが予想される患者さんは、難聴や人工内耳の専門外来で専門医からさらに詳しい説明を受けます。患者さんとその家族の方々が人工内耳についてよく理解し、手術適応の可能性があると判断されれば、さらに詳しい神経耳科学的検査、補聴器装用検査、CT、MRIなどの検査を受ける事になります。多くの検査は予約制で、何回か外来に通院する必要があるので、遠方の患者さんでは1週間位検査入院し、その間に検査をまとめて行うこともあります。この際、聴覚だけでなく例えば高血圧や糖尿病、呼吸器や血液疾患の有無など、実際の手術に支障をきたすような病気がないかどうかも同時にチェックします。そして、最終的な手術の適応については担当医師だけでなく、言語聴覚士、言語療法士などを含めた会議で、充分な検討の末に決定されるのが普通です。

人工内耳手術を希望して受診した患者さんのうち、最終的に手術を受ける方はかなり少なくなりますが、今後、この冊子を含め人工内耳に関するより多くの、正確な情報が広まるにつれて、自分自身の適応についてしっかりとした知識と意志をもつ患者さんが増えていくと予想されます。

参考文献

○伊藤寿一、川野通夫:患者の選択−手術をきめるまでのプロセス、人工内耳(本庄 巌編著)、中山書店、 1994

 

4)手術にともなう危険性

人工内耳の手術にともなうリスクは他の中耳炎などの手術と同程度です。人工内耳の手術手技はすでに確立されたものであり、特に特殊な技術を要するものではありません。熟練した耳の手術の専門医なら安全に行う事ができます。人工内耳の手術を受ける患者さんの中耳は正常か、あるいは以前に中耳炎があってもそれが治った状態ですから、一般の中耳炎の手

 

 

 

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