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【中枢性難聴や重度の精神障害】

人工内耳は内耳に電極を入れて聴神経を刺激するものですから、当然、聴神経や聴覚中枢の障害で聴こえなくなっている場合にはいくら内耳から電気刺激を入れても効果が得られませんので、手術はすすめられません。具体的には、両側の聴神経腫瘍、脳血管障害や腫瘍による側頭葉や脳幹の障害などが挙げられますが、両側聴神経腫瘍の場合は、人工内耳の電極の先端を改良して脳幹を直接刺激する方法があり、かなりの成果が上がりつつあります。

重度の精神障害や精神発達遅滞がある場合も、人工内耳から音やコトバの刺激が入ってきても、それを認知、理解する脳に障害があると、これを活用する事ができませんから、やはり手術はすすめられません。

【本人の意欲がない場合】

はっきりとした目的がなく、家族や周囲のひとにすすめられてしぶしぶ病院に来る方も、時々おられます。このように手術の意義や、実際に得られる効果についての現実的な理解なしに手術を受けると、術後、人工内耳の音が不快で不満を持ち続けたり、いちいち人工内耳をつけるのがわずらわしくなったりして、結局使わなくなる場合すらあり、そのままでは手術はすすめられません。人工内耳を活用するためには、なにより本人に、聴覚を活用して人とのコミュニケーションや日常生活に役立てたいという切実な希望、意欲があることが不可欠です。成人例では一般に人工内耳の手術後2〜3ヶ月で少なくとも日常会話に関してはそれ程不自白なく聞き取れる程度にはなりますが、それでも手術後の人工内耳の調整などのためしばらくは通院が必要です。その間、最初は必ずしも良好な音が入らない場合もあり、人工内耳を使い続け、より聞き取りやすくなるように状況に応じて感度を工夫するなど、本人の意欲が言語理解力の向上につながります。また、同居している家族などの身近な人たちが、患者さんと根気強く、わかりやすい話し方(ゆっくり、はっきり)で会話を進めていく努力も必要です。いろいろな人とうまくコミュニケーションができる様になると、それが患者さんの大きな励みになり、本人の意欲がさらに高まります。

【活動性の中耳炎があるひと】

人工内耳では人工の機器を体内に埋め込みますから、埋め込み部分は清潔でなくてはなりません。中耳炎で細菌による感染が続いており、膿がたまっている様な場合には、まずこれを抗生物質や手術で治して、しばらく再発がないかどうかを確認してから人工内耳手術を行います。このように、中耳炎があっても、これを治せば人工内耳手術ができますから、長期の慢性中耳炎などで高度感音難聴となった方でもあきらめることはありません。

 

2)先天襲の成人の人工内耳

先天聾あるいは言語習得前に失聴して既に成人になっている方に対する人工内耳の効果は意見の分かれるところです。コトバを習得する以前に聞こえを失った患者さんでは、生まれて初めて人工内耳から入るコトバの情報を手掛かりに、言語体系を新たに構築してゆく必要がありますが、特に失聴期間の長い先天書の成人の場合にはこの(リ)ハビリテーションのプロセスに大きな努力と長い時間とを要します。先天聾の成人では人工内耳手術を行っても人工内耳のみでの言語理解は効果が乏しく、人工内耳は環境音の聴取にとどまり、手話や口

 

 

 

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