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「役に立つことができた」と思えたホスピスの仕事からも,心残りな老人ホームでの別れからも,人はたくさんの実りをいただいています。そこで収穫できる実りは,人間がさしあたって生きものとして生き延びるために,必ずしも必要としないものです。しかし,その恵みを受けることを通していのちの質を高めようとするのが,人間という生きものの専門性,すなわち人間性です。
 いま,人間社会はどの方向に向かっているのかはっきり見極めのつかないまま突進している危険な状態にあります。その中でちょっと足を止め「人間性とは何か」,「人間とは何か」という根源的な問いを,自分自身と社会に向かって投げかけるのが,ホスピスボランティアであると思います。
 今回私が日本に向けて発つ前にドイツで「兄弟愛の週間」が始まり,それにちなんである表彰式がミュンヘンで行われました。それはイスラエルとドイツの間の有効促進に貢献した人へのメダル授与で,今年は故イスラエル首相の未亡人,ラビン夫人に贈られました。その式場に大きく掲げられてあった標語をここお伝えして私の話の締めくくりといたします。それは,“Wenn nichit ich, Wer? Wenn nicht jetzt, Wann?”というもので,「私でなければ誰が? いまでなければいつ?」と訳されます。
 私たちは一度立ち止まって呼吸を整え,こころを調えてから,その場で自分にできることを,いますぐ手がけていこうではありませんか。

 

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