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お子さんがいないご夫婦でしたが,ご主人が肺炎になって亡くなってしまったのは,自分の闘病のお世話で疲れてしまったからだという思いをおもちでした。ご主人の死後一人でずっと暮らしていたのですが,いよいよ具合が悪くなってきて,ご兄弟が心配して,ホスピスを探して,半ば無理矢理入院の運びになってしまったのです。ご本人はそのときは,見学にもちろんいらしたのですが,「ホスピスに来たらおしまい。もう最後だし,どうなってもいい。私はどうせ一人なのだし」と,本当にやけになって来られたそうです。
 入院したときは吐き気があって,暗い表情で,気力がなく,何をするにも億劫で,あまり話もしたくないという状況でした。少し吐き気をコントロールすることとか,お通じの調整をするとか,食べやすいものを提供するとかということと,非常に気持ちがふさいでいたので,少し気分転換ができるといいと考えながら関わっていました。入院して10日ほど過ぎてから,初めてお部屋の外へ出て庭まで散歩に出られるようになりました。それから20日目に,ボランティアに手伝ってもらって近くの大きなスーパーに車いすで買い物に行かれたのです。それが非常に楽しかったというか力になりまして,その翌日から初めてティータイムにデビューされました。それからはアートプログラムにも参加されて,入院して1ヵ月半で口にされたのは,「私は入院したときは,もういつ死んでも,どうでもいいと思っていた。けれども,ホスピスで暮らすようになって,もっと生きたくなりました」そして,それはボランティアの方たちと出会って,「こんな生き方もあるのか」と思ったと。私のいままでの人生の中ではボランティアという発想はおよそなかった。こういうふうに活動している方がいるのだということに触れたら,もっと生きたくなったとおっしゃったのです。そのころは表情も豊かでニコニコして冗談も言って,非常に明るくなっておりました。

 

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