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 もう少しまとめますと,ターミナルの患者さんに付き合う中には「私は何もできない。だけどそこにいたい。その人のために」というようなそういうつらい思いをされる方があると思います。何も私はしてあげられないという自分の存在,自分は元気に歩けるという思いと,相手は寝たまま何もできないでいるという違いに胸を痛めて,じっとしている存在。これをマイナスとしてとらえないでほしいと思うのです。相手の存在を感じながら,何もできない私がここにいる。その前に停むというようなそういう畏怖という思いがボランティアの仕事の中に重要な部分を占めるのではないかと思っております。

患者さんのはたらきかけを受け入れる

 「何かできる」と思ったら,そこから危ない奢(おご)りが出てくるのではないかという気もいたします。私は牧師ですが,最近,仏典を読むことが多いので,道元の言葉を紹介したいと思います。道元は日本の禅宗の一派である曹洞宗を開いた方ですが,『正法眼蔵』の中の「現成公案」という文章の中でこういうことを言っております。「自己をはこびて万物を修証するのを迷いという」。
 どういうことかと自分なりに考えると,自分が考えていろいろ計画して一生懸命やる。これは現代人にとってベーシックな行動パターンだと思います。そして,「自己を主として自己の外なる万法,すべてのことを認めようとすること」と訳が書いてありますが,自分を運んで行って,すべての存在をわかっていこうというのを道元は“迷いだ”と言うのです。そして,さらに対句のように「万法すすみて自己を修証する」,つまりすべての存在が歩み寄ってきて自己を修証する。つまり証明してくるのが悟りだというのです。ということは,つまり患者さんが私に自由にものを言えるような雰囲気にするのがボランティアの特権なのかもしれないというような気もします。

 

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