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 病院のスタッフは厳しい役割をもっていて,時間内に何かをやり遂げなければならない。そういう人の前では,患者さんは「してもらう人」として自分を受けとらざるを得ない,つまり患者さんは常に受動的な立場に置かれます。患者さんがいちばん回復を望んでいるのは,自分が自分の意思で何かを言ったりしたりすること,あるいはしなかったりするという自由なのです。そういうことがおかされていく,自分に意思決定がなかなかできない状態になっていくのが患者という存在ではないか。それを世話をするとか,サポートするという形でどんどん患者さんを受動的な存在に押し込んでいってしまうような傾向が医療の側にあるときに,患者さんのほうからこちらに歩んできて好きに何かを言えるような相手としてのボランティアというのはたいへん貴重な存在なのではないでしょうか。先ほどお話しした遺言などというのもやはりそういう場面で生まれることではないかと思います。

受動的価値の発見

 まず他者への畏れというものがベースにあって,なおかつ私が何もできなくなったら,それでおしまいなのかというのではなく,「こちらが何もできなくなったときこそ,相手が立ち上がって私に何か言ってくれる」,そういうようなセンスにぜひどこかで気づいてほしいと思います。こういうことは“やる”というのではなくて“佇む”と言ったほうがいいのかもしれません。「自己を運びて万物を修証するのを迷いという」の言葉にあるとおり,その能動的なところを迷いとして,「万法すすみて自己を修証する」というように受動性の価値を見つけ出してほしいと思います。先ほども言いましたように,あまり“してあげる”という方向で考えるのでなく,「自分が本当にしてもらえる人になる」というような目的を,ボランティア活動をしていくどこか遠くのところに置きたいと思います。

 

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