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 2週間ほど待ったのですが,結局Aちゃんはいろいろな事情があって描くことができなかったのですが,そのときに私が「この羊飼いさんはきっとこの1匹の羊がとってもたいせつだったんだよね。だからみんな99匹を置いても,99匹が狼に食べられちゃうかもしれないんだけど,そういう危険をおかして1匹を捜しに行った。ところであなたは何がいちばんたいせつなの?」と聞いたのです。僕の意図では,Aちゃんはまだ小学校の3,4年ですから,自分がいちばん大事にしている宝物みたいなものを言うと思っていた。そうしたら,その子はウーンと考えながら,すごく素直に「いのち」とひと言答えました。
 私はそのとき非常に衝撃を受けました。私はAちゃんを子供とみくびっていたのかなと。その子が毎日“いのち”と向き合って,自分のいのちが終わるのではないかと相当深いところで葛藤しているのだということが改めてわかって,そういうことをお母さんやお父さんと話したことを覚えています。Aちゃんは結局自宅で亡くなったのですが,そのひと言が,私にとっては彼女の遺言だと思います。いちばんたいせつなものは何かと気軽に聞いた牧師に対して,“いのち”ということを教えてくれた。
 この“いのち”には本当にいろんな解釈,意味があります。これはきょうの参加者の皆さん一人一人に,「たいせつなのはいのち」と遺言した,そんな思いで聞いていただくとうれしいと思います。

●Bさん―来てくれてありがとう
 もう一例,暮れのことでしたが,ある病院で終末を迎えられた方がいました。Bさんとお呼びします。病室には愛犬が寝ていました。Bさんは重篤な状態です。Bさんはクリスチャンではなかったのですが,私と話すのを何となく楽しみにしておられたようです。そのBさんが私を呼ばれたのです。前後して菩提寺のお坊さんも呼ばれたようでした。

 

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