日本財団 図書館


2.3.3 氷厚

(1) 氷厚に関する研究事例

サロマ湖において実施された観測事例から合成開口レーダによる後方散乱係数と氷厚には相関があるとの報告がなされている(Wakabayashi and Nishio, 1997)。ERS-1およびJERS-1のSARを利用しているが、両者とも氷厚と後方散乱係数には負の相関があるとされている。

また、北極海についての研究例(Onstott, 1992)でも同様な傾向が見られている。

この結果は、一般に流氷域では気温より海水温の方が高いために、氷厚が大きいほど流氷の断熱効果によって流氷表面の温度が低下し、後方散乱係数が小さくなることによるものと考えられる。

(2) 氷厚解析のまとめ

本研究では、現地データが得られていないため氷厚に関する解析は実施していないが、将来的に現地調査と合成開口レーダの同期観測が実施され、現地データが蓄積されればオホーツク海における後方散乱係数-氷厚の相関式が得られるものと思われる。

本研究で対象とした画像には後方散乱の高い(白い)氷盤と低い(黒い)氷盤が見られたが、上記の結果に従えば黒い氷盤が厚く、白い氷盤が薄いことになり、目視判読の結果と食い違う。流氷の後方散乱係数を決定する要因は2.2.1(2)「流氷の発達史とマイクロ波散乱特性」に示したように、

・ 表面の粗度

・ 温度

・ 塩分

・ 空間構造(流氷内部の不純物や空隙の存在など)

・ 積雪・融水の有無

によって変化する。そのため、表面粗度などが必ずしも同一の条件にあるとは言えないこれらの流氷に対して氷厚-後方散乱係数の関係を直接適用することは難しいと考えられる。

 

2.3.4 移動方向・速度

(1) 移動方向・速度に関する研究事例

SAR画像から流氷の移動を検出する研究はSEASATの段階からいくつかの事例が見られる(Leberl and Raggam, 1983)。また、ERS-1/SARについてはThomas et al. (1995)がある。これらは2枚またはより多くの画像をペアとして、それぞれの画像上で同一の流氷と認識できるものの移動方向を検出し、さらに移動量と撮影時間の差から移動速度を計算したものである。

撮影間隔はSEASATの例では30日、ERS-1の例で3日であった。

(2) 移動方向・速度のまとめ

今回の研究では対象とする画像が1枚のみであったため移動方向・速度に関する解析は行っていない。

しかし、オホーツク海では流氷の移動が比較的激しいために撮影間隔を短く取る必要があり、現在の条件(再帰日数がもっとも短いRADARSATでも2〜4日)では、衛星搭載の合成開口レーダから流氷の移動を検出できるのは流氷の動きの穏やかな場合に限られると考えられる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION