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第2部 中国海軍の未来

1 中国の国家戦略

中国海軍の戦略や今後の動向を検討する前に、中国の国家戦略や軍事戦略、さらには中国の国家戦略に影響を与える中国の世界観や、国際関係観などを明確にしておく必要があろう。中国人の世界観は「中華人民共和国」という国名が示すとおり、「中華思想」という優越感から生まれる自己中心主義と、さらに自己正義感が極めて強いのを特徴としている。そして、自らを世界の中心に置き、過去、周囲の民族を野蛮な「東夷」、「西戒」、「南蛮」、「北狄」と呼称し「華夷秩序」に従属させ「臣下の礼」をとらせてきた。この中華思想から中国は、諸外国と対等な国際関係や貿易関係を維持したことはなく、貿易は「貢ぎ物」に応じて返礼を返す朝貢貿易であった。一方、中国の国境観は文化的優越感からハウス・ホーフォハー(Karl Haushofer)や、ラッツェル(Fredrich Ratzel)の「国家の領域は文化の浸透とともに拡大する。自国の文化を他国の領域内に広めると、その領域が自国の領域に加わる」や、「国境は同化作用の境界線である。国境は国家の膨張に応じて変動すべきものであり、その膨張がこれを阻止する境界線に出合うと、打破しようとして戦争が起こる」という国境観に特徴がある(6)。

また、中国人は文化的に遅れた異民族を自国の文化で同化し、中国的生活圏を拡大することを使命と考え、周辺の異民族も中国化され、中国に組み入れられるのを歓迎するはずと考えてきた。このような中華思想から、中国人には近世まで国境に対する概念がなく、中国が最初に国境を認めたのは、1689年に締結されたネルチンスク条約であった。中国の国境観に世界が驚いたのは、1949年に中華人民共和国が成立し、新中国の承認をめぐって国境が問題となると、中国はアヘン戦争以後に失った領域を国境再検討の原点とすると回答を得た時であった。そして、このような国境観からか中国は、中学校の教科書である『近代中国小歴』には、かっ

 

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