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後者はその日その日で「来る者拒まず」式に受け入れていったことであろう。

前者の登録制では,被災者のニーズがつかめるまでボランティアが拠点で待機するという事態は避けられよう。しかし,被災者のニーズを積極的に発掘するという意欲は生まれず,また,多様なボランティアに活躍してもらうという機会も逸することが多い。

後者の「来る者拒まず」式だと,たまたま被災者のニーズが見つからない場合,数時間の待ち時間が生じるというデメリットはあるが,それを避けるために自らニーズを発掘しようという意欲が生まれる。また,多種多様の機能やハートを持つボランティアと直接知り合い,それぞれの個性に見合う活動に結び付けていく機会も生まれる。

もちろんそのためには,有能なコーディネーターが多数必要になる。コーディネーターは翌日のボランティア数を予測し,それに見合うニーズを揃えていかなければならない。そして,それぞれのボランティアの個性に応じて活動を割り振っていかなければならない。

これは大変な修練を要する仕事である。残念ながら今回は,大阪ボランティア協会とJYVAで最低限のコーディネーターを揃えたという状況であった。日ごろからボランティア・コーディネーターを養成しておくことの重要性が痛感された。

但し,マニュアル通りにしか動けないコーディネーターでは,災害現場などでは無意味である。コーディネーターには適性が必要である。セミナーなどによって頭で理解しても現場では用をなさない。長い時間をかけて,日ごろから現場を経験しておいてもらうしかない。

 

企業人ボランティア

物資の提供を手控え始めた2月上旬から,被災者のニーズは「人手」に移っていった。倒壊家屋からの家財の取り出しや,引っ越しを手伝ってもらえないかというニーズである。

そこで企業人ボランティアを1%クラブから呼びかけたところ,1ヵ月で延べ200人の企業人が3泊4日の被災地ボランティアを経験した。また,「市民の会」の事務を手伝う「事務局ボランティア」も募集し,6名の企業人が2週間から1ヵ月という長期のボランティアを行ってくれた。企業も極めて好意的に彼らを送り出しており,時代が変わったことを実感させられた。

「市民の会」としては,企業人ボランティアの受け入れにはとまどう面もあったように思う。その根本原因は,価値観の違いであろうか。企業の論理では,「効率性」は極めて重要な価値観である。

これに対しボランティア団体は,ボランティアに参加することによっていろいろなことを発見し,楽しみ,自己実現を図り,ボランティア自身が成長していくことを重視する。P.F.ドラッカーの言う,ボランティア活動による「人間の変革」である。ボランティア団体の価値観は,そこに置かれる。

この「効率性」と「人間の変革」という価値観が衝突することがある。詳しくふれることは別の機会にするが,今回の現場では,コーディネーターや企業から参加した「事務局ボランティア」が,忍耐強く調和を図ってくれた。価値観の違いをそれぞれに認め合い,相手の論理を尊重するだけの度量のあったことが成功の要因であったと思う。

 

多様性という価値観

今回の大震災は,私たちが日ごろ口にしていたことを如実に見せつけるものであった。

私たちは日ごろから,「行政のやれることには限界がある」と述べてきた。

まさしく現場では,避難所の被災者までは何とか行政の手が届いても,自宅に残る高齢者や障害者まではとても行き届かない。また,被災者の多種多様なニーズを把握し対応することもできない。これらは単に余裕がないということだけでなく,行政の価値観や行動様式も一因となっている。

それならば,日ごろからボランティアの活動の場をできるだけ広げておき,いざというときに彼らが迅速に行動できるような環境整備をしておくべきであろう。

外国人被災者,メンタルの面で深い傷を負った被災者,親を亡くした子供たちなど,それぞれの不幸に日ごろの対応を生かせるボランティア・グループが現実にたくさんある。行政は自らの限界を認め,彼らの活動し易い環境作りの方にこれからは力を入れていくべきであろう。

もうひとつは,企業とボランティア団体とがネットワークを組めるということである。今回は,大規模なネットワークが現実にできあがったという点で,画期的なことであったと思う。互いに信頼し,違いは違いとして認め合って,「多様性」という価値観さえもっていれば,論理の相違は乗り越えていくことができる。

膨大な数の犠牲者を出した痛ましい出来ごとであったが,阪神・淡路大震災後に一筋の明りを見るとするなら,そういうことを体験したということであったろうと思う。

 

 

 

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